* * * * *

 妙に気が張ってなかなか寝つけないまま時間が過ぎ、ようやくまどろんできた頃。
ギシッと微かに畳が軋む音で、太一は意識が引き上げられた。
「…太一兄さん、起きてますか?」
「あ、ああ」
 背後から掛けられた声が思ったよりもずっと近くから聞こえ、太一は驚いたような声を
上げてしまった。
「どした?」
「そっちに行ってもいいですか?」
「…自分の布団で寝なさい」
「いやです」
 言うなり、背後で知晶が布団に潜り込んでくるのを感じた。
「あ、こら!」
「兄妹なんですから、いいじゃないですか」
「…こんな歳になってまで一緒の布団で寝る兄妹がいるか」
「ここに居ます」
 肩越しに振り返ると、知晶はもうすっかり顎まで布団に潜り込み、テコでも動かなそうなほど
居着いてしまっている。
「…今日だけだからな」
 ぶっきらぼうに言って、太一は再び知晶に背を向けた。
「ん。あったかい」
「ぉわッ!」
 突然、ぴたりと背中にくっつかれ、太一は飛び上がりそうになった。
「な、何してんだ」
「くっついてるの」
 当然のように言って、知晶が太一の首筋に頬をすり寄せる。
「やめろ、くすぐったい」
 首の後ろを温かい頬と柔らかい髪の毛にくすぐられ、太一は思わず身悶える。
「じゃあ、こっち向いてください」
「…別に向き合う必要無いだろ。俺はこっち向いて寝るのが好きなんだよ」
 なんとなくイヤな予感がし、突き放すように言うと、知晶はしれっと答えた。
「じゃあ、私も好きにします」
 言うなり、太一の胴に手を回し、抱き締めてくる。
 太一は背中に感じる温かさと柔らかさを必死にシャットアウトしつつ、なんとか寝ることに
意識を集中しようとする。
「太一、兄さん…」
 そんな太一を追い詰めるように、知晶は呟きつつ、なおも身を寄せてくる。そして、
「好き」
「……!」
 背中で囁かれた言葉に、太一は思わず硬直した。
「好き。大好き」
「………わかったから、寝ろよ」
 なおも呟く知晶に、太一はたまらず口を出した。
「うん。今のは寝言です」
「…起きてるじゃねえか」
「太一兄さんがこっちを向いてくれないと、ずっとこの寝言を言い続けてしまいそうです」
 なんだよそれは……。と、まさに寝言は寝て言えの状態に、太一は溜め息を付いた。
「好き。好き。好き。大好き」
「…ああっもう! 分かったよ! そっち向きゃいいんだろ!」

 なおも囁かれ続ける言葉に、太一は半ば自棄になって振り向いた。そんなに耳元で囁かれては
とても寝つけそうにない。
 振り向いた瞬間、
「大好きっ」
「ぅおっ」
 がばっと抱きつかれ、そのまま上から覆い被さるようにして組み敷かれる。首にしがみ
つくように抱きつかれ、頬を艶やかな黒髪がくすぐる。
「お、お前っ……!」
 慌てて抗議の声を上げようとした太一に、顔をぶつけるようにして知晶が迫る。
「──んんっ!」
 太一の視界が知晶で埋まった。暗がりでよく見えないが、軽く目を瞑った知晶が見えた。
長い睫毛が微かに震え、ミルクのように瑞々しい肌が、至近距離で薄闇に映える。
 唇に感じる柔らかな感触と、隙間から漏れる熱い吐息で、キスをされたことにようやく
気付いた。
「っ!」
 突然のキスで固まっていた身体が自由を取り戻すと同時、顔をねじってキスから逃れた。
「っぷあ! な、何して…!」
「好きっ、大好きっ、大好きっ」
 唇だけに飽き足らず、所構わず知晶がキスの雨を降らせる。頬、額、目蓋、顎、耳、首。
目に付く所全てを唇で埋めるかのように、知晶が情熱的にキスを降らせる。キスの嵐だ。
「大好き。大好きっ」
「おま、やめ、んぅっ!」
 抗議の声を封じるかのように、再び唇を奪う。
「んっ、んぅ…。はっ、ん、ちゅ」
 何度も何度も唇を重ね、上唇や下唇をついばむように吸ってくる。
「ちゅ、ん。んぅ…はぁ、太一…。ちゅ、ん…」
 きつく抱き締められ、密着した身体からは湯気が出そうなくらい熱をもち、集中豪雨の
ように降らされるキスで、太一の顔が熱い吐息に炙られる。
 太一はもう、熱いやら恥ずかしいやらで、思考回路がずたずただった。
「もうっ、いい加減にっ……しろ!」
 それでも、なんとか理性を振り絞って太一が知晶の肩に手を掛け強引に引き剥がした。
 馬乗りにされ、覆い被さるように抱きついていた知晶との間に空間ができる。
 目の前で、興奮のせいか、顔を上気させた知晶がこちらを見下ろしている。
「知晶っ! いい加減に……」
 あまりの行為に怒鳴りかけた時、ソレに気付いて言葉を失った。
 押し退けるように肩を掴んだ手の平に感じる、温かく柔らかな肌の感触。
 自分の顔の横から伸びる腕は、透き通るような白い肌で、二の腕から肩のラインが暗がり
に輝く。
 知晶の顔を凝視していた視線を呆然と下に移すと、白い首筋、艶かしく浮き出た鎖骨、
そして、もうしわけ程度に膨らんだ小さな胸と、見えてはいけないはずの乳首まで見えた。

 ──裸だ。と気付いた瞬間に顔を反らした。
「な、な、なんで、裸、なんだよ」
 おそらく、全裸だ。真っ白いお腹も目に入ったし、その下もちらっとだけ視界に入って
しまった。もちろん、部屋は薄暗いし、半分布団を被った状態だったため、ほとんど見えて
ない。断じて、見てない。もしかしたら、さすがにパンツは穿いているかもしれない。
 しかし、その期待はお腹に感じる感触で打ち砕かれた。
 知晶は太一のお腹に腰を下ろすようにして馬乗りになっている。お腹に感じる感触は、
パジャマや下着などの布越しのそれではなかった。柔らかいお尻の感触を腹部に感じ、
太一の頭が沸騰する。混乱のあまり、思うように動かない口を必死に動かし、言葉を紡ぐ。
「…なに、考えてんだよ。なんで、そんな、格好なんだ」
「太一兄さんが好きだからです」
「…お前は、好きだからって裸になるのか?」
「太一兄さんが傍に寝てると思うと、我慢出来なくて」
「…我慢しなさい。そんなはしたない娘に育てた覚えはないぞ」
 太一は顔を背けたまま冗談めかして言いつつ、その実、混乱している頭を必死に
落ち着かせようとするだけで精一杯だった。

 なんで、なんでこんな状態になってるんだ。なんで知晶が裸で俺に迫ってるんだ。
ちくしょう、見ちまったじゃないか。……ああああ! 思い出すな思い出すな!
 太一は頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。心を落ち着かせようとするほど、
先ほどの知晶の肢体が脳裏に蘇り、よけい気が動転してしまう。

「はたしなくてごめんなさい。でも、私がそうなるのは太一兄さんだけですから」
 囁くような知晶の声が耳に届く。顔を背けているため知晶の表情は分からないが、
声を聞く限り、落ち着いているように感じる。こっちはもう一杯一杯だっていうのに。
「太一兄さんが好きで好きでたまらないんです。私の身体、見ましたよね? どう
でした?」
「ど、どうって……。お前…」
「胸は…小さいですけど、形は悪くないと思います。太一兄さんは、胸は大きい方が
好きですか?」
「お、俺の好みはどうでもいいだろ。それに、見てない。暗くて、見えなかった」
 またもや知晶の身体を思い出してしまって、太一は慌てて否定する。小さくて
ささやかな胸は、よりにもよって、太一の好みど真ん中ストレートだった。
「じゃあ、見て下さい」
 言うなり、知晶は太一の顔を両手で挟んで正面を向ける。
 今度こそハッキリと、知晶の身体が目に入った。
 透き通るような白い肌が暗がりに浮かび上がる。薄い胸が目の前にあり、ほっそり
とした華奢な腰まわりが視界の隅に映る。
 見ちゃ駄目だ。見ちゃ駄目だ。と理性が必死に脳内で警戒音を発生させているが、
視線がまるで磁石に吸い寄せられるかのように下にさがる。
 一瞬、凝視してしまい、慌てて知晶の手を振り切って顔を反らした。
「…いい加減にしろよ。怒るぞ」
 太一は凄むような声を絞り出す。さすがにそろそろ離れてくれないとヤバい。
いろいろとヤバい。
 太一は内心焦りまくりながら、努めて冷徹に聞こえるように声を出す。

「いいか? お前のことは妹としてしか見てないんだ。だから、裸を見せられても
嬉しくないし、困るだけだ」
 裸で抱きつかれて、顔中にキスされて、馬乗りにされて腹に尻が当たってる状況なんて、
マズすぎる。いくら知晶とのスキンシップに慣れているとはいえ、太一も健康な成人男性だ。
当然、反応する所は本人の意志とは無関係にあさましく反応してしまっている。頼むから
気付かないでくれと、必死に念じる。

「私を妹としてしか見てないなら、裸を見てもどうってことないんじゃないですか?」
「どうってことないわけあるか」
「じゃあ、私の裸を見て興奮してくれるんですね?」
「ちがう!」
 段々、太一は苛ついてきた。自分が折角耐えているのに、なんでこいつは追い詰める
ような事を言ってくるんだ。
「さっさと離れて服を着ろ。本当に怒るぞ」
「やだ」
「お前…! いい加減に」
「だって、太一は嘘を付いてるもの」
「嘘なんか付いてない」
「じゃあ、これは何?」
「──っ!」
 知晶はお尻を後ろに下げ、ぐりっと太一の盛り上がった股間を刺激する。急な刺激に
太一の腰が跳ねた。
「太一の、おっきくなってる。私で興奮してるってことですよね?」
「それはっ、ちがっ…ぅくっ!」
 知晶の小さな手がズボン越しに股間を撫で、否定しようとした言葉が途切れる。
「嬉しいです。私でこんな大きくなって…」
 本当に嬉しそうに言いながら、知晶が太一の股間を撫で回す。
「やめろっ!」
 ほとんど悲鳴のような声を上げ、太一が上体をおこし、知晶の腕を掴む。
「何考えてんだ! いい加減にしろ!」
 なるべく知晶の身体を見ないようにしながら、太一が叱りつける。
 もう本当にこれ以上は駄目だ。叱る言葉とは裏腹に、太一は焦っていた。
 本当にこれ以上はやめてくれ。どうにかなりそうだ。太一は「知晶は妹、知晶は妹」
と頭の中で繰り返し、理性をつなぎ止める。
 知晶相手にどうにかなっちゃ駄目だ。という気持ちと、何故駄目なんだ? という
気持ちがごっちゃになって、まともに頭が回らない。とにかく、この状態から抜け出す
ことしか考えられない。
「お前、こんなことしてどうなるか分かってるのか!?」
「分かってますよ」
「じゃあ、やめろ!」
「やだ。だって、太一としたいんだもの」
「…っ!」
 至近距離で真直ぐ見つめられ、知晶が迫る。
「おっきくしてるってことは、太一もしたいんですよね?」
 違う! と叫んだつもりだったが、声が出なかった。


「太一、セックス、して?」
「お前…ッ!」
 その言葉に、太一が弾かれるように叫んだ。
「お前、分かってねえ! いいか! 男は、そんな風に迫られたら、身体が反応しち
まうんだよ! セックスしたいから勃ってるんじゃない、ただの生理現象なんだ!」
 太一の剣幕に知晶は驚いたように目を見開いたが、すぐに薄い笑みに戻り、
「それは、要するに男性の本能ってことですよね?」
「そうだ、だから、」
 俺の本心じゃない。という言葉を遮って、知晶が微笑む。
「太一は、本能では私とセックスしたいってことですね?」
「本能であって、俺の本心じゃない」
「一緒ですよ」
「違う。お前は、俺の身体だけでいいのか!? 確かに本能じゃ興奮してるし勃っちゃ
てるよ! でもな、それは俺の身体だけで、俺の心は、気持ちは、そうじゃないんだよ!」
 その言葉に、知晶は息を飲んだように震えた。
「セックスして、俺と身体は重ねられるかもしれないけど、俺の心はお前と1ミリも重なって
ないぞ! お前はそれでいいのか!? 俺の気持ちは全然、お前のものになってないんだぞ!?」
「………」
 太一の言葉に、知晶がうつむく。知晶の気持ちが、みるみる萎んで行くのが太一にも
分かった。

 思わず太一は心の中で息を付いた。本当にギリギリだった。これ以上ねばられたら、
どうにかなってしまいそうだった。

 正直、知晶は可愛い。ぶっちゃけてしまえば、物凄く自分の好みだ。小柄な身体も、
綺麗な長めの黒髪も、全部好きだ。

 でも、7つも歳が違う。

 もしも、双方が共に大人になってから出会ったのなら、あるいは気にならない差だった
のかもしれない。
 でも二人は子供の時から、それこそ太一は知晶が赤ん坊のころから知ってるのだ。

 太一が小学2年生の時に、知晶が産まれた。そのころの記憶はさすがに霞んでしまって
おぼろげだが、もみじの葉っぱみたいな小さな手で自分の指を握ってきた赤ん坊の知晶を
憶えている。

 今は確かに知晶は16歳になって、法的には結婚出来る年齢になったが、太一の中では
小さな子供のままだ。守るべき小さな女の子の、大事な女の子のままだ。
 そんな知晶に、自分が理性を失って手を出してしまうことだけは、どうしても避けた
かった。
 それだけ、太一は知晶を大事に想っていた。

 ──ああ、そうだ。その通りだ。自分は知晶が好きだ。それも、一人の女の子として
好きなのかも知れない。
 でも、今はそう見ることは出来ない。
 あと何年か。知晶が社会人になるくらいになれば、自分も、一人の女性として彼女を
見ることが出来るかも知れない。せめて、その時まで──


 長い沈黙の後、知晶が口を開いた。
「ごめんなさい…」
 消え入りそうな声で呟く。
「ごめんなさい…。太一兄さん」
「知晶……」
 どうやら、知晶は分かってくれたようだ。太一は胸を撫で下ろした。
 未だ馬乗りになっている知晶の肩に手を乗せ、太一は出来るだけ優しく言う。
「ほら、ちゃんとパジャマ着て、布団に入れ。風邪ひくぞ」
「ごめんなさい…」
「もういいから。怒鳴って悪かった。ごめんな」
 ほら。と知晶の肩を掴んで下ろそうとするが、知晶はうつむいたまま、微動だにしない。
「ごめんなさい…。太一兄さん。私、」
 言いながら、太一に覆い被さってくる。
「ちょ、知晶?」
「私、セックスしたい」
 耳元で囁かれた声に、太一は頭をバットでぶん殴られたような衝撃を受けた。その隙に
知晶がまた唇を重ねてくる。
「んんっ!」
 そのまま押し倒され、また馬乗り状態に逆戻りしてしまう。
「んぅ、ちゅ、太一兄さん、好き。んっ」
 知晶は唇をちゅっちゅとついばみながら、するすると太一の腰に手を伸ばす。
「知晶っ、やめっ、ぅあッ!」
 少し力を失って萎えかけていた股間を、知晶の手が撫でる。みるみるうちに硬度が増して
行く。
「ごめんなさい。やっぱり駄目。セックスしたい。ね? お願い」
「お前、まだそんなことを……うくッ!」
 直情的な知晶の手で股間を撫で回され、太一が呻く。顔から首筋までキスの雨を降らせて
いる知晶を、太一は股間の感触に歯を食いしばりながら呆然と見つめる。
 なんてことだ。あれでも知晶は納得しないのか。理性がキリキリと千切られて行くのを
はっきり感じた。
「知晶、やめろッ!」
「ちゅ、んぅ。……やだ」
 キスを一旦止め、知晶は至近距離で太一を見つめる。その目は据わったようになっており、
意地になっているようにも、泣きそうになっているようにも見えた。


「本当は太一の心も欲しい。でも太一は私のこと妹としてしか見てない。だったら、どうせ
叶わない想いなら、せめて身体だけでも結ばれたい。嫌われてもいい。この機会を逃したら
私は永久に太一の身体も手に入れられない。それなら、どうせ嫌われるなら、どうせ、私の
こと好きになってくれないなら、無理にでもしちゃいます。…だから、ごめんなさい」
「──ッ!」
 なんだそれはと、叫びたくような腹立ちが、太一の頭を一瞬で真っ白にした。
 太一は自分が何故耐えているのか、何のために耐えているのか分からなくなった。
 そして、自分が必死に耐えているのに、執拗に誘惑してくる知晶の態度が苛ついてしょうが
なかった。
 もちろん、頭の奥では、自分が勝手に耐えているだけで、それにたいして苛つくのは
理不尽だと分かっている。しかし、度重なる誘惑で擦り切れた脳みそは、まともな判断が
出来なくなっていた。

 そしてなにより「どうせ嫌われるなら」とか「どうせ好きになってくれないなら」という
言葉に、目の前が真っ赤になって、──キレた。

「ふ、ざ、け、ん、なーーーー!!」
 絶叫し、知晶を強引に引き剥がす。
「ふざけるなッ! 嫌われるだと!? 誰がお前の事を嫌いだと言った!? 嫌いになる
わけないだろうがッ! くそっ、ふざけんな!」
 こんなにも大事に想っているのに、小さい頃から見守ってきて、誰よりも大事に想って
いるのに、嫌いになんかなるわけがない。何故それが分からないんだ。
「た、太一兄さん…?」
 突然の豹変に、知晶が呆然と見上げる。
「太一兄さんと呼ぶな! 太一だろ! 俺はお前の兄じゃない!」
 ビシッと指を突き付け、言い切る。
「お前は、俺の妹じゃない!」
「た……、太一…で、いいんですか?」
「よくないわけあるか! くそっ! 好き勝手散々誘惑しやがって、何が嫌われてもだ!
嫌いなわけあるか! 何が好きになってくれなくてもだ! 好きに決まってるだろうが!」
「え? え? えぇ!?」
 困惑する知晶をよそに、太一は暴走し続ける。もう自分が何を口走っているか、分かって
いないようだ。
「俺がどれだけお前の事が大事で、どれだけお前の事が好きだと思ってるんだ! お前に
じゃれつかれるたびに、俺がどれだけドキドキしてると思ってるんだ!」
 くそっ、ふざけんな! と言いながら、部屋の電気を付け、ドスドスと足音を立てて
部屋の隅に寄せたちゃぶ台に歩み寄る。
 分からせてやる。こいつに俺がどれだけお前の事が好きなのかを、分からせてやる。
 ちゃぶ台の上に置きっぱなしだった婚姻届をひっつかみ、殴るような勢いでペンを
走らせる。鞄から印鑑を取り出し、ガツンッと捺印。
 そして、書きたてほやほやの婚姻届を知晶に突き付ける。
「どうだ! これで俺とお前は婚約同士だ! これでも俺が、お前のこと嫌ってるとでも、
好きじゃないとでも言うのか!」
 ざまあみろ! と言わんばかりに太一が言い放つ。
 眉をつり上げ、怒りで興奮して息を荒げている男が、裸でペタンと座り込んでいる
女の子に婚姻届を突き付けているという、なんだかよく分からない状態のまま、時間が
流れる。


 たっぷり数十秒後、未だにぽかーんと、呆然として固まっている知晶の様子を見て、
太一がようやく、己の行動の意味に気付いた。

 …………あれ? 今、俺……何をしてた?

 ハッと、自分の言動に気付き、頭に登った血が音を立てて引いて行き、背中にぶわっと
冷たい汗が噴き出した。

「ふ、ふふ……ふふふふふ……」
 沸き上がるような含み笑いが聞こえ、太一が呆然と知晶を見下ろすと、にまぁと顔を
ゆがめて無気味に微笑んでいた。
「い、いや、今のは、そのっ」
「ふふふ、駄目です。ちゃあんと聞こえました」
 慌てて言い訳しようとするが、知晶に遮られる。
「そぉですか。そんなに太一は私が好きなんですか。うふふふ…」
「や、その、あれは…」
 ぺたんと座り込んだまま、知晶が楽しそうに肩を震わせる。こちらを見上げる目が
人の悪そうに細められ、頬を上げて含み笑いをしている。
「とても、嬉しいです。私達、両想いなんですね?」
 言いながら、知晶が立ち上がる。電気を付けた明るい部屋に、知晶の肢体が晒され、
太一は慌てて目を逸らした
「ち、知晶、お、落ち着け。今のは、違うんだ、その…」
 太一は血の気が引いて青ざめたり、知晶の裸を見てしまって赤くなったり顔色が忙しく
変化している。混乱のあまり、頭が真っ白だ。
「違うって、何がですか?」
「あのな、さっきのは」
「何も、違うことなんてありませんよ?」
「うっ──」
 ぴたりと寄り添い、嬉しそうに微笑んで見上げている知晶に、太一は言葉に詰まる。
「私は、太一が好き。太一も、私が好き。相思相愛です」
 迫られて、言葉も詰まって、頭も混乱して、太一は口をぱくぱくさせることしか出来ない。
「嬉しいです。太一、大好きっ」
「──ぉわっ!」
 子犬のように飛びつかれ、バランスを崩して布団の上に尻餅を付く。
「太一、太一、太一」
 名前を連呼しながら首にしがみつくようにして抱きつき、唇を押し付けてくる。
「セックス。セックスしよ? ね?」
 はぁはぁと息を荒げ、鼻と鼻がくっつくような距離で知晶が言う。
 興奮のせいか、相思相愛の嬉しさのせいか、瞳が潤み、頬も上気している。
「太一、私、嬉しい。もう、我慢、出来ません。セックス。ね? しよ? セックス。ね?」
 ちろちろと太一の唇や下顎をなめながら、すっかり発情した知晶が早口で捲し立てる。
熱い息が太一の顔を焦がし、太一は脳みそまでも熱で蕩けてしまいそうな錯覚を覚えた。
「ち、知晶、駄目だ。俺は、お前を妹として…」
「何言ってるんですか。さっき『お前は俺の妹じゃない』って言ったじゃないですか」
 案の定、苦し紛れの言い訳は、あっさり看破された。今さら言っても説得力がないのは
分かっていたが、言わずにはいられなかった。それに、
「知晶、お前は16歳だろ? 分かるだろ? ほら、18歳未満の女の子と俺みたいな大人の
男がしちゃうと、駄目なんだよ。な?」
「ええ、知ってます」
「じゃあ、」
「でもそれは、結婚を前提とした付き合いならば問題ないはずです。ほら」

 そう言って、嬉しそうに婚姻届を太一に見せる。
「私達は、すでに婚約してるんですから、そういった問題はありませんよ?」
 そうだった……。勢いとはいえ、自分はなんということをしてしまったのか。太一は
八方ふさがりの状況に頭を抱えたくなった。
「太一が自主的に署名したんじゃないですか。もう忘れたんですか?」
 くすくすと微笑みながら、知晶が迫る。
「もう、私達の間には何の障害もありません。ね、太一。貴方の心も身体も、私のものですよ?」
「…っ!」
 ゆっくりと知晶が抱き締めてくる。
 そして、耳元で囁く。
「その代わり、私の心と身体は太一のものです。ずっと、大事にしてくださいね?」
「知晶…!」
 ──ああ、もう……。
「…どうなっても、知らねえぞ」
「うん。私を無茶苦茶にして。太一も、私で無茶苦茶になってください」
 ──もう、駄目だ。

 知晶は、赤ん坊の頃から見守ってきた、大事な女の子だ。
 そんな女の子に手を出すなんて、絶対に許されない。ずっとそう思っていた。
 でもそれは、極めて自分勝手な考えなのだろう。自分の中の知晶を壊したくなくて、
彼女と深い関係になるのを恐れていたのだ。

 彼女はこんなにも真直ぐに自分に好意を伝えてきている。そのやり方には少し問題が
あるかもしれないが、逆に、彼女が真に自分を好きでいてくれていると感じられ、太一は
愛おしさで胸が一杯になった。

 歳が7つ離れてるからなんだ。そんなのを理由にして、今まで自分の心と知晶の気持ちから
目を逸らしていた。無視し続けていた。

「太一。大好き。んぅ…」
 知晶が潤んだ瞳で唇を重ねてくる。

 覚悟を決め、迷いを振り切るように、太一が知晶を初めて抱き返した。自らも唇を重ね、
舌を絡める。

 太一がとうとう年下の幼馴染みに陥落した、その瞬間だった。

 * * * * *


「太一、太一っ」
 今までとは逆に、太一が知晶にのしかかり、小さな胸に舌を這わせている。
 知晶は愛しい人に胸を愛撫され、歓喜と快楽に身を悶えさせる。
「あ、ゃ、やあ…んんっ」
 未知の快感が身体中を駆け巡り、知晶が布団の上で仰け反る。
「んっ、ぁ…、はぁ…、やっ、ゃあ…」
 執拗に乳首を攻められ、知晶の身体がびくびくと痙攣するように震える。
 太一はなおも乳首を舌で愛撫しながら、右手でもう片方のふくらみを撫でるようにして揉み、
左手を背中に回す。
「ふ、ぅんっ……あ、やっ…は…、ああ…きもちぃ…!」
 両方の胸を愛撫され、知晶が溜まらず愉悦の声を漏らした。快楽と興奮で首筋まで真っ赤に
染まり、瞳も情欲に染まって潤んでいる。
 固くしこった桜色の乳首を強めに摘むと、「っはあ!」と鋭い刺激に知晶が背を丸める。
背中に回した左手で、丸まった背を背骨にそって撫でてやると、「ふぁああっ!」と今度は
仰け反る。敏感な知晶の反応が楽しくなって、太一は胸と背中を交互に攻めたてる。
「やっ! それ、だめ、だめだめぇ! ふあっ! は…、やあ…あッ!」
「…敏感だな。知晶は」
「やあっ…だって、これ、んっ…。きもちいっ…ふああぁ…」
 歓喜の声をあげ、髪を振り乱す。長めの髪の毛がしっとりと汗で濡れたミルク色の肌に
貼り付く。
「だめ、だめ、ビクってなっちゃう。あああっ……」
 強過ぎる感覚に、知晶は小さな身体を震わせる。快楽に翻弄され、頭はもう、より太一と
気持ちよくなることしか考えられず、はぁはぁと喘いで半開きになった唇から涎が垂れる。
「太一、太一、太一ぃ」
 愛しい彼の名前を口にしながら、耐え切れなくなったように太一の頭を胸に抱く。
 執拗に攻められた乳首は痛いくらいに固くなり、切羽詰まった知晶の心情を表している
かのようだ。

「…知晶。お前、可愛すぎ」
 胸から顔を離し、太一が呟く。
 折れそうなくらい華奢で、抱き締めたら腕の中にすっぽり収まってしまうくらい小柄な
知晶が、自分の名前を呼びながら快感に悶える姿は、目眩がするほど卑猥で、太一は頭が
くらくらしてきそうだった。
「太一、下も、こっちも、触って?」
 情欲に染まった瞳でこちらを見つめ、太一の手を掴んで下腹部に誘う。
「お前、こんなにエッチだったんだな…」
 はしたなくおねだりする知晶に、太一が呟く。下腹部に触れた手が、熱い体液でじっとりと
濡れて行く。
「だって、太一と、セックスしてるんですよ? 嬉しくて、頭も心も身体も蕩けそうです」
「蕩けちまえ」
 恥丘を優しく揉むように撫でると、途端に知晶が反応した。
「ああっ!」
 わずかに綻んだ割れ目から愛液がとろとろと染みだし、太一の指の滑りを良くする。
 ゆるゆると割れ目にそって優しく撫でてやり、染みだした愛液を擦り込むように愛撫。
「ひっ、いっ、ふあっ…。ああっ…! きもちいい…きもちいぃ…」
 腰の奥がじんわりと熱を持ち、身体が蕩けそうになる快感に、知晶は太一の肩に掴まって
耐える。


「あっ…ふぅ……。す、好きな人に触ってもらうと、自分でするよりずっと気持ち良いって
本当、なんですね」
 時折身体をびくびくと震わせながら、知晶が潤んだ瞳で微笑む。
「自分で、してるのか?」
「…うん」
 少し恥ずかしそうに頷いて、潤んだ瞳で真直ぐ見つめてくる。
「太一を想って、んっ…。いつも、独りでしてます」
 秘所を刺激されながら、知晶が真っ赤な顔で告白してくる。
「実は、今日、あっ…。太一が会社から帰ってくる前に、この部屋で、独りでしてました」
「んなっ…」
 突然の告白に太一は固まる。
「まだ洗ってないYシャツの匂いを嗅いだら、我慢出来なくて」
 ……このエロ娘め。と、太一は中指の第一間接の半分ほどを不意打ちで秘裂に入れた。
「ひあぁッ! ゃあっ」
 途端に嬌声をあげて知晶が仰け反る。反射的に太ももがぎゅっと閉じられ、秘所を
いじっている指がより圧迫される。
「ああああッ! やッ! だめだめだめぇ!」
 敏感過ぎる秘裂の内側を刺激され、知晶が髪を振り乱す。神経を駆け巡る快感に、
太ももの力を緩めることが出来ず、更に強く刺激されてしまう。
「た、太一ッ! それだめッ! あッ! やッ! ああーーッ!」
 ガクガクと小さな身体を痙攣させ、強烈な快楽が腰の奥で弾けた。
「あーッ! だめッ! イッ、イッちゃ……ああああッ!!」
 絶頂に達し、知晶はやっと太ももを緩めることが出来た。
「はっ…はっ…」
 強過ぎる性感に、身体がカタカタ震え、絶頂の大きさを物語る。
「知晶、だ、大丈夫か?」
「は、はい…」
 太一にしがみつきながら、息も絶え絶えで知晶が答えた。
 自分の手ではく、好きな人の手によって強制的に絶頂に達せられる快感は、知晶の
想像を遥かに超えていた。
 余韻でまだ身体が言うことを聞かず、彼にしがみついて接触している部分からも
じんわりと気持ちよさを感じてしまうほど、身体が快楽を感じる神経を過敏にして
いる。

「すごく、気持ちよかったです」
 振り乱した髪の毛が、汗と涙と涎で濡れた顔に行く筋か付いている。とろんとした
表情でしがみつき、絶頂の余韻に時折身体を震わせる知晶に、太一は居ても立っても
いられなくなった。
「お前、そんなエロい顔するなよ……」
「私、エッチな顔してます?」
「ああ…」
「太一のせいですよ? 太一が私にこんなエッチな顔をさせてるんです。気持ちよくて
もう頭がおかしくなりそうです」
 蕩けた顔で微笑み、そのままキス。
「んぅ、ちゅ、ん、ふぅ…。ちゅっ…んっ」
 情熱的に唇を重ね、舌を絡めあう。知晶はその感触だけで腰が震え、自分の大事な所が
さらに濡れて行くのを感じた。
「んっ……」
 離した唇からだ液が糸を引く。
「知晶、その…いいか?」

 鼻と鼻がくっつきそうな距離で、太一が尋ねる。
 その言葉に、知晶は腰の奥からとろとろと温かいものが溢れてくるのを感じた。
 ああ、とうとう自分は彼のを受け入れられるんだ…。
 ゾクゾクと下腹部が震え、何の刺激もしていないのに、膣が収縮を始めたような気がした。
「うん。太一、して」
 太一はゆっくりと知晶に覆い被さり、ズボンを下ろして陰茎を取り出した。ガチガチに
なった陰茎が飛び出し、知晶の目を釘付けにする。
「出来るだけ優しくするから、痛かったら言えよ」
「…うん」
 お互い荒い息を付き、逸る気持ちを抑える。知晶は早く挿入してもらいたくて、腰を
はしたなく浮かしそうになり、太一はがむしゃらに突っ込みたい欲望を必死で抑える。
 触っていた時よりもぬかるみ、だいぶ綻んでいる秘裂に、いきり立ったものをあてがう。
 一息付いてから、ゆっくりと侵入。
「んっ…」
 狭い膣内が熱い肉の銛によってこじ開けて行く感覚に、知晶の声が漏れる。
「あ、ふぁ……、んっ…」
 入り口で慣らすように出入りを繰り返し、徐々に深く突き挿さってくる。
「あ、あ、あっ……、っ!」
 破瓜の痛みに、知晶が顔をゆがめる。身体が硬直し、シーツを固く握りしめる。
「大丈夫か?」
 知晶の表情の変化で太一が一旦動きを止めた。とろとろに溶けて温かい膣口が亀頭を
吸い込むようにきゅうきゅう締まる刺激に、太一が耐える。今すぐ身体の奥深くまで
ペニスをめり込ませたい欲求に駆られるが、なんとか抑え込んだ。
「んっ…。平気です。動いていいですよ」
「ああ」
 ゆっくりと出し入れを繰り返しながら、奥へ侵入して行く。
「ふ、んっ…あ、あ、んあっ」
 小刻みに出し入れされ、いきり立ったペニスが膣内を擦る度に、強い刺激が知晶を
襲う。
 前戯で一度達しているためか、膣内は柔らかく溶け、初めての侵入者をスムーズに
受け入れている。
「あっ、は、ふあっ…ゃ、んっ」
 同時に、一度絶頂を迎え、全身の快楽の神経が敏感になっている知晶は、熱い肉棒に
擦られる度に声が出てしまう。
「ゃ、ぁ、んんッ! あ、はッ! ん…」
 やがて、肉棒を1/4ほど残して、知晶の膣内が一杯になった。
「はぁっ…ん、あ…。全部、入りました…?」
「ああ…」
 小さな身体でいきり立った剛直を飲み込み、荒い息で喘いでいる知晶に、太一の
興奮が高まる。
 大きな瞳を潤ませ、小さな胸が荒い呼吸に上下している。彼女の細い腰の中に自分のが
入っていると思うと、居ても立ってもいられなくなり、がむしゃらに腰を動かしたい衝動に
駆られた。

 知晶の方も、待ち望んだ挿入に腰が震える。狭い膣を一杯に広げられ、否応無しに
彼のものの存在を感じてしまう。
 自分が、太一のものを受け止めている。一番、深い所で繋がっている。その事実が、
知晶の興奮をさらに高め、破瓜の痛みを綺麗に消し去っていた。


「太一、動いて、動いてっ。私のナカ、擦って」
 言いながら、自分で腰をくねらせる。その刺激に呻きつつ、太一は負けじと腰を振り
出した。
「あッ! あーッ! ふあっ、ナカ、すごいッ」
 深いストロークで出入りする肉棒に、知晶が悶える。
「やッ! やッ! だめ、だめっ、きもちぃッ! あああーッ!」
 先ほどの指とは比べ物にならない存在感で、知晶の膣内を陰茎が蹂躙する。敏感な
所を容赦なく擦られ、抉られ、知晶は髪を振り乱す。
「ああーッ! ああーッ! 太一! 太一!」
「知晶…っ」
 顔を情欲一色に染め、知晶が太一の名を連呼する。その様子に、太一は更に深く
腰を打ち付けようと動きを激しくして行く。
「ああ太一…! セックス、セックスしてる! ああ太一とセックスしてる!」
 自分が行っている行為を確認するかのように、知晶が叫ぶ。そして、叫ぶ度に心の奥で
その行為を認識し、興奮が増していった。
 もう知晶は、太一とセックスしてることしか考えられない。
「あッ! ふああッ! きもちぃっ、きもちぃっ! だめぇッ!」
「知晶っ! 俺も、気持ち良い…!」
 お互いの腰が激しくぶつかり、水音が響く。ぐちゃぐちゃと結合部が泡立ち、どんどん
溢れる愛液が知晶のお尻まで伝ってシーツを濡らす。
「あーッ! あーッ! やあッ! あああきもちいッ!」
 激しく突かれ、知晶の子宮が揺さぶられる。強過ぎる快感に、頭の中がぐずぐずに
なって、快楽一色に染まっていく。
「太一! 好き! 大好き! 大好きぃ!」
「俺も、好きだ!」
「あああッ! 太一!」
 がむしゃらに腰を振る太一に脚を絡め、知晶もより深く突いてもらいたいかのように、
脚を引き寄せ、腰をくねらせる。
「太一、イク、イク、イキそ、私、私、もうっ」
 狂ったように絡み合いながら、知晶が切羽詰まった声をあげる。
「あッ! あッ! 太一、太一は? 太一も、イッて、イッて、出して」
 太一の首に手を絡め、知晶が喘ぎながら声を出す。快楽を一身に浴び続け、蕩けきった
顔で知晶が懇願する。
「私、イク、イク、イクから、太一も、出して、イッて、私で、私で出して、私でイッて!」
「──ッ!」
 知晶の懇願に、太一の背筋が震えた。
 細い腰を両手で掴んで、激しく引き寄せるように腰を振る。
「あ、や、きもちぃッ! イクッ!、きもちぃぃもうイッちゃう! 太一、太一!」
「知晶ッ! 出る…ッ」
「ああイクッ! ああーーッ! あああああイクぅぅッ!」
 絶頂を迎え、一際大きな嬌声を上げて知晶が仰け反る。同時に、
「うくッ!」
 膣の中で、肉棒が跳ねた。大量の精を放ち、子宮に叩き付けるように次々噴き出す。
「ああ出てる! 出てるぅ…。太一の、太一が、ああッ!」
 太一がイッてる! 太一がイッてる! 太一がイッてる! 私でイッてる!
 愛しい彼が、自分でイッてくれて、出してくれたことが何より嬉しく、興奮した。
 その事実と、驚くほど熱い精液を膣内で感じ、知晶がまた嬌声をあげる。
「あーーッ! あーーッ! あーーッ!」
 再び絶頂に達し、強すぎる快感が知晶の小さな身体を駆け巡る。
 逃れようのない快感に、どうしようもなくなって、知晶は太一にしがみついた。
「ああ、あ、太一…。好き、好き」
「知晶…」
 激しい絶頂の余韻に身悶えながら、二人は顔を寄せあい、唇を重ねた。

 * * * * *


 今日ほど、自分の部屋の両隣りが空き部屋だったことに感謝した事はなかった。
 1Kのアパートだ。特別壁が薄いわけじゃないが、あんな激しくしたら確実に隣に声が
漏れていただろう。
 太一は静かに息をついて、婚約届けを封筒にしまう。
「じゃあ、これは俺が預かっておくから。………そんな顔すんな」
「だって、てっきり明日届けに行くと思ったのに…」
 布団にくるまって、知晶が不満げに見上げてくる。
「そんなわけに行くか」
 溜め息をついて、封筒を収納ケースにしまう。
 知晶はすぐにでも婚姻届を役所に届けるつもりらしいが、さすがにそういうわけには
いかない。
 太一は知晶の傍にしゃがみ込んで、諭すように言う。
「お前が大学を卒業したら籍を入れようって言ってるんだから、いいじゃないか」
「16歳になったら、太一と結婚出来ると思ってたのに。後6年も待たないといけないんですか?」
 明らかに納得していない顔で、知晶が言う。
「結婚はしてないけど、婚約はしたってことじゃ駄目か? …それと」
 言いながら、鞄からラッピングされた正方形の箱を取り出す。
「ほら、誕生日プレゼント」
「あ、ありがとうございます」
 この場でもらえるとは思っていなかったのだろう。知晶は少し驚いたような様子で、手の平に
乗るサイズの箱を受け取る。
「開けても良いですか?」
「どうぞ」
 凝ったラッピングを知晶が丁寧に解いていき、箱をあける。
「あ、これ…」
「うん。前にお前が欲しがってたから」
 プレゼントは、シルバーで縁取りされた、シンプルなデザインのウッドリングだった。
 前に二人で出かけた時、知晶が欲しがっていたリングだ。その時は、こんなアクセサリーは
まだ知晶には早いと思っていたが、まあ1つぐらいなら持っていてもいいだろうと、今年の
誕生日プレゼントはこれを選んだ。
「ありがとうございます。嬉しいです」
 満面の笑みに、少し照れくさくなって頭を掻きながら太一が付け足す。
「婚約指輪ってわけじゃないけどさ、記入済みの婚姻届と、この指輪だけじゃ、不安か?」
 知晶は指輪をしばらくじっと見つめ、ちらっとこちらを見上げる。
「…浮気したら、許しませんよ?」
「そんなことはしない」
 きっぱりと答えた。
「約束ですよ?」
「ああ」
 太一は力強く頷く。知晶は、今までの人生で一番大事な女の子だった。そして今日からは、
残りの人生でも一番大事な女の子になった。浮気なんてするわけがない。
 太一は箱からウッドリングを取り出し、知晶の手を取る。
「知晶、誕生日おめでとう。それと、これからよろしくな」
 すっと、知晶の細い薬指にリングが通される。

「太一、大好き」
 年下の幼馴染みの女の子は、満面の笑みで愛しい彼に抱きついた。

終わり
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