ある春の日。 俺、瀬木和彦は、ごく普通の言葉でよくある理由で別クラスの女生徒、松木恵美に告白をした。 周囲に風が吹き、俺の制服もなびき、松木の長いスカートも翻る。 松木は眼鏡ごしの瞳で冷静に俺を見る。 「ありきたりな台詞だし…ありきたりのシチュエーションだけどさ… 俺と…付き合ってくれないか…君のその素直な性格に惹かれたんだ…」 特にドラマや漫画みたいに特別な事もなく、ただ彼女の気遣い、クールなのに意地を張らない物腰に惹かれて。 そして、ある時俺をフォローしてしてくれたのがきっかけで、彼女への想いが止まらなくなって… そのフォローは俺だけじゃなく、困ってる人全員にしてたんだけど、むしろ色々な人に公平に接する彼女に惹かれていた。 松木は照れてはないけど、少し困惑した様子で眼鏡をくいと上げる。 だけどその様子も変わり、すぐさま冷静に言う。 「そうか、だが、私なんかでいいのか?私はそんなに良くないぞ?」 女の子なのに特徴的な男言葉で彼女は答える。 松木の言葉は謙遜だった、スタイルも良く、顔も美人で性格もいいのにこれは謙遜だと思う。 真っ直ぐな綺麗な目、丹精な顔立ち、自己主張をするバスト、細い腰、流れるような長髪は素晴らしい。 「いや!俺は君じゃないと駄目なんだ!君じゃないと…その性格に惹かれたんだ」 「だがな、私に言い寄ってくる男性は少しいたが、恋に恋してるとか。 私の事一部しか見てないとかそんな感じなのが多かったぞ。 はっきり言おう、私の一部しか見てない男性は大嫌いだ 恋愛はもっと互いを知ってからだな、だから…」 ああ…現実はこんな感じなのか…結構辛いな…振られるのは… と、そこで、俺は振られたかと思っていたが、意外な言葉が俺の耳に飛び込んできた。 「まずは恋愛と言うのは互いを知る事だろう?私も君の事知りたいし、だから友達からだ。 もしも互いに好きになれたら付き合えばいいと思うぞ、私はどちらかと言えば、君が好きだから」 と返された、告白としては割と良い結果だろう。 俺は喜んでその提案を受ける。 ここから、俺と彼女の日々が始まったんだ、互いを知るための日々が。 温かい日差しの中、生徒達が昼食を取る休み時間、俺は妄想していた。 恵美の事をもっと知りたいし、彼女がどんな娘なのか興味あるし。 どんな事をしているのか、どんな趣味があるのか…どんな物が好きなのかとかな。 それとか…アレとかそれとかどうしてるのか… 「うはあ…ふへええ…だーっははっはっ!」 俺はついつい淫らな妄想にふけってしまい、声を上げてしまった。 「おいおい…なんだか危ない奴だぞお前は…またお得意の妄想か…」 友人の桧山孝一(ひやまこういち)は俺の近くに現れてそう言った。 「う、うげえ!?いたのか…」 「そりゃあ…友人が危ない声出していたら心配するだろう?お得意の妄想か…」 そう、俺は被害妄想も普通の妄想も多い少年なのだ。 そのおかげで妄想が特技なんてぬれぎぬを着せられてしまった。 「ああ、まあそんな感じだ…なあ孝一…お前眼鏡の女の子って好きだよな?」 俺は何故だかそんな事を思い、まったく脈絡のない話題を切り出す、その話をした瞬間孝一の目は輝く。 眼鏡と言うのは松木の事だ。 「おう!勿論だ!うっはー!眼鏡は素晴らしい!女性の魅力を引き出す魔性のアイテムだ!伊達眼鏡等邪道だ!上目遣いは心が踊るぞ!メガネっ娘に悪い女の子なんていないのだ!あえて言おう!眼鏡をかけていない女は」 「あー、はいはい…わかったわかった…」 俺は自分から聞いておいて失礼な反応だと思ったが、「あえて言おう!カスであると!」とか言いそうだったので言う前に暴走を止めた。 別に俺は松木が眼鏡だろうが裸眼だろうが気にしない、別に眼鏡が女性の魅力を損ねるとは思ってないが、逆に魅力を引き出すとも思ってない。 「失礼な奴だな…お前は…で、何だ!?メガネっ娘に告白でもするのか!?それともしたのか!?するなら是非しておけ!」 ああ、気の合う友人だが、時折孝一がウザく感じるのは俺だけなのだろうか? 「で、コクったのか?どんな娘だ?」 「ま、そんな所、ありがちな話だけどさ、遠くから見ていたり、彼女の言動とかに俺は惹かれたってわけ、一見冷淡だけど素直で、運動神経は平均だけど頭が良くて、言葉使いは変だけどさ、眼鏡でも裸眼でも可愛いと思う娘」 俺が何気なく言った所で、孝一の表情が変わった。 それで手を大袈裟に振りながら俺に言う。 「………それってもしかして…B組の松木恵美か…あいつはやめておけ!見た目はいいが火傷するぞ!」 どうやら松木と何かあったらしいな。 「ん?お前何かあったの?眼鏡フェチ黒帯のお前がそんな様子なら何かあるんだろう?」 そう、孝一は眼鏡フェチでメガネっ娘ならマジで性格が極悪非道でも良いんだが、恵美だけは受け入れられないらしい。 と、そんな事を考えていると友人の加宮芙美(かみやふみ)が俺に声をかけてきた、顔を赤くしながら俺に言う。 背が小さく、童顔で幼児体系な女だが態度はデカく、ツン部分が多めのいわゆるツンデレだ。 だが、時折世話焼いてくれるのがこいつの良い所だ。 「ちょっと!何してんのよ!べ、別にあんたの事なんてどうでもいいんだけどさ!入り口で恵美が待ってるんだからね!」 俺は加宮の口から何気なく松木の名前が出てきた事に少し驚いた。 まったく知らなかったし聞きもしなかったが友人なのか、この口ぶりからすると。 「そっかー、松木と知り合いだったのか、なら話は早いな」 はっ!?待てよ!?もしかして松木がここまで来るって事は…もしかして松木は黒くてふがいない俺をからかうためか!? 松木は実は黒くて俺をからかうために!うううわああああ!! 「落ちつきなさいよ!馬鹿!」 「ぐ、ぐおおおおおお!」 その時、股間に加宮の脚がめりこむ…脳天が俺はその衝撃で意識が消し飛びそうになった… ああ、俺はお得意の(被害)妄想をしていた時に…正気に戻してくれたんだな。 孝一もついでに股間を抑えている。 「ぜえ…ぜえ…わ、わかった…」 そんな馬鹿騒ぎをしていると松木が教室に入ってきた。 何か丸い物が二つ入っているディフォルメのクマが書いてある包みを持って。 意外だな、可愛い物が好きなのか?でもそんな恵美が可愛いな。 表情はあまり変わっていないが楽しそうに見える。 ああ、確かに今飯時だし、俺も彼女との距離を縮めたいからな。 「やあ、何をしているんだ?楽しそうだな」 「あ、あはは…松木、ただ昼食の爽やかな空気で和んでいただけさ!うん、そろそろ飯食いたいなあって思ってたし」 俺は我ながら意味不明な言い訳をする。 和やかではなくただ騒いでいただけな気もするが… 「そっか、それなら瀬木、そろそろご飯を…」 と、松木は何気なく俺の方を見ると、そこでいきなり加速し孝一に向かって早いパンチを放った。 松木の身体能力は平均的だが、頭が良いため身体能力以上の威力があるパンチの打ち方等をわかっているのだろう。 孝一は拳で受け止め、相手が女の子なのに容赦なく拳で反撃する。 風を切る拳の応酬が続く、実力は互角だが、孝一が身体能力で上回っているかわりに技能が雑で。 松木は身体能力は平凡だが学習しているのか、回避や攻撃法が多彩で空手の技も使用している。 中の中辺りの戦いだが見応えはある。 こ、この二人に何があったのか…周囲の生徒も呆然としている。 はっ!?見とれてないでストップかけないと!別に孝一はどうなってもいいけど恵美が! 「やめーい!ストップ!ストーップ!何かあったのか!」 俺は必死でとめた。 「ぜえ…ぜえ…そうだな…」 「確かにな、クールではないな」 「で、どうしてあんな事を…」 俺が尋ねた所、孝一と恵美は声を合わせて。 「「喧嘩友達だ!」」 と言った、ああ、ウマが合わないように見えるけど本当は仲いいってやつか。 本当に仲悪いわけじゃなくて、むしろ仲が良いんだな。 で、そんなこんなで騒動があった中。 裏庭でそれぞれ弁当を広げた。 春の風が心地よく頬を撫でる。 俺の弁当は白身魚のフライとハンバーグ、ご飯にサラダ。 母さんが好物を入れてくれたんだ。 俺はうきうきしていた、どうやら加宮も孝一も同じように好物を入れてもらったらしいな。 だが、そこで一人だけ浮いた弁当があった… 「あ、これか?今日お母さんが時間なかったから私が自分で作ったんだよ」 そう、それは松木の弁当で、不恰好なおにぎり2つだった。 この様子に見覚えがあるのか加宮と孝一は無反応で、驚いているのは俺だけだった。 片方は不恰好に鮭フレークが盛られていて、片方には不恰好におかかが乗っている。 「いや、特徴的だなと思ってさ」 「そうか、私は料理は不得手でな、作れるのはこれぐらいなんだ、女の子らしくないか?」 松木が何気なく俺に尋ねる。 俺は正直に答える事にした。 「別に料理ぐらいいいんじゃないか?それぐらいで女の子らしくないなんて事ないんだから。 だから気にするな、それはそれで個性あって良いと思う」 「ふふ、そうか、それなら必要になった時に料理すればいいかな?」 松木が口元に笑みを浮かべながら言った。 「恵美、良ければあたしが教えてあげるよ」 加宮はそう恵美に言った、意外と加宮は料理が上手いらしいな。 「ありがとう、それなら頼りにさせてもらおうか、私も将来のために腕を磨きたいな」 女の子同士の会話は楽しげで良いよな、あまり境界線がない感じで。 窓を開けているため温かい風が吹いてくる、和やかな空気を感じる。 「おっ、卵焼きか、俺に少し分けてくれ」 そう言い、俺の了承も聞かずに孝一は俺の卵焼きをひょいと食べる。 別に卵焼きは好きでも嫌いでもないのでそんなにダメージはないが、ただ単純に弁当のアイデンティティである卵焼きを取られた事に腹が立つのだ。 僅かとは言え俺の肉体に吸収されエネルギーになるうるものを… 俺がそんな事を考えていると、松木が弁当をじーっと眺めて俺に声をかける。 表情こそ変わってないが眼鏡ごしの瞳を3割増しで輝かせている。 「ど、どうしたんだ…」 「なあ、良ければそのサラダくれないか?私好きなんだ…サラダ…」 うっ…クールに装ってるけど興奮を隠せない瞳が可愛い… 綺麗系だと思ってたけど可愛いな… 「な、なーに!サラダくらい全部やるさ!ほら!」 俺はそう言って松木の口に箸でサラダを差し出した。 なんだか顔が熱い気がするな…何故だろうか…これぐらいで… 「ほう、間接キッスか君も案外積極的だな、だがそうゆうのは嫌いじゃないぞ、はむっ」 はっ!?間接キッスか!?夢中で気づかなかったが… うーわー!俺はセクシャル魔人になりうるぐらいの事をしてしまったのか!? だが、松木は平然と食べていて、口をもぐもぐさせている。 流石の孝一と加宮も驚いていたが、一番驚いたのは間違って間接キッスを推奨してしまった俺だった。 まさかここまで積極的だとは…恥じらいがないわけではないのだが恥ずかしい事に抵抗ないみたいだな。 「美味しかったぞ、うん、君のお母さんは料理が上手いようだな」 松木は照れもぜずに平然と俺に言う。 少し変わってるけど、こうゆう所が好きなんだろうな。 胸が温かくなるのを感じる。 「は、ははっ、それは良かった」 と、そんな時俺の唇に指を伸ばしてきて、俺についているご飯粒をすくい口に寄せて食べる。 その仕草が可愛い。 「瀬木だらしないぞ、弁当つけてさ、きちんと食べろ、な」 「あ、ああ…そうだな…うん…」 俺は顔を赤くしてしばし呆然としていた。 でも、嬉しいな自然体の彼女に俺は癒されるのを感じていた。 よし、こんな感じで良いかな? 俺は靴紐をぎゅっと縛った。 今は体育の時間で、クラス混合の授業だった。 そのため松木も一緒にいる。 グランドにはダラけてる奴や無駄に気合が入ってる奴もいる。 「おーい、瀬木頑張れよー、エネルギーを燃やし尽くしてこそ充実感があるんだ」 そこで松木に声をかけられた。 彼女の服装はボディラインがはっきり見える体操着に、小さくて可愛い尻、豊満なバストとか刺激的だった… うっは!スパッツ最高じゃないですか!身体のラインがくっきり出て!うん!最高! 男子としては健全な反応だろう、邪魔だから眼鏡は外しているが、裸眼でも松木の可愛らしさは失われていない。 スパッツ最高だ!スパッツは神だ!あんな事やこんな事をする時はスパッツを穿いたまま…っ! はっ!俺はまたもや妄想を…俺は心頭滅却してヒートした頭と下半身を冷やした。 「ああ!やれるだけやってみるよ!」 俺が走る番がやってきた、松木に手を振り俺はスタート地点に着く。 期待されてるんだからな…俺は別に運動は得意でも苦手でもないが、やれるだけやってみる事にした。 はっきり言えば女の子の前で良い所を見せたいと言うスケベ根性だ。 「よーい!スタート!」 俺は合図とともに先陣を走る、100メートル走だ。 風を切る感覚を感じる、よし!ペースは上々! 俺は体力は多いわけではないが、短距離の爆発力にはそれなりに自身がある。 自惚れかもしれないが短距離なら普通の生徒よりは早い自身があるが相手が悪かった。 なんたって五人中二人がサッカー部と陸上部だから。 俺は気づけば微妙な差でその二人に抜かされていて、全力で走るが追いつけない。 結果、俺は三位だった。 勝てないのはわかってるけど少し悔しいな、頭ではわかっていても結果を出されるとな。 俺は全力疾走したので息を切らせていた。 「ぜえ…ぜえ…」 「ほう、よく頑張ったな、早い早い、少し驚いたぞ」 そう言い、松木が俺に近寄ってくる。 「へへ…女の子に良い所見せたいってスケベ根性すよ…」 「君は素直だな、そうゆう所嫌いじゃないぞ」 松木は温かい言葉で俺に言う。 「さーて、次はあたしの番か、やってやるー!」 加宮は静かに気合を溜める。 それなりにスタイルは良いみたいだが走っても胸が平均の少し下ぐらいで揺れないだろうなー。 松木と違って胸が揺れなさそうでつまらなそうだ。 「な、何変な事考えてんのよ!この馬鹿!」 俺の考えが空気で伝わってきたのか、加宮は俺のシンボルを破壊するためなのか鋭い蹴りを俺の股間にめりこませた! 何か大切な物がつぶれる痛みを感じる…ここまで立派に育ったのに… 「お、おぐぉ…」 俺は痛みで最早悲鳴もあげられなかった。 「あ、案外大きいのね、ふん!別にあんたのアレなんて興味ないんだからね!」 と、ぷんすか怒りながら加宮はスタンバイに入った。 「それじゃ瀬木、私も走るから見ていてくれよ」 「う、うん、勿論だ…うっ…」 俺はまだ股間の痛みが残っているためロクな返事も出来なかったが、何とか返事は返せた。 「あ、それとな、私は応援されるとがんばる力が出てきて胸が温かくなるんだ。 ぬくもりを感じるんだよ、だから私は認められると伸びるタイプなんだ、だから、応援して欲しいな」 松木は恥ずかしくて普通なら言えないような台詞を真顔で言う。 いつまで経っても慣れないし恥ずかしいけど、これが彼女の良い所だからな。 「ああ、わかったよ、応援してくれたしな、うん」 俺はついついおかしくなったのと、純粋に微笑ましく感じているのが混ざったような感じだった。 「スパッツっていいよな…」 「うん、胸が揺れるのもいいよね…」 と、俺と孝一は女子の体育を見てスパッツと乳揺れに興奮していた。 天国だな!体育は!ぐはははっは! ぽよぽよと揺れる胸とか最高だな! と、そんな事を考えていると俺と孝一の脳天にハンマーのように重い一撃が炸裂した… そんな乱暴なのは加宮しかいなかろう! 今の一撃で脳みそが吹っ飛びそうになった。 「い、いつつつつつつ…」 「ほんぎゃー!な、何する!」 「あんたら何やってんのよ!」 「いやー、何もしてないぞ!女子の身体を眺めていただけで、胸の発育良いなあ」 「……潰す!全て潰すよ!跡形もなく!」 「へんぎゃらぽぱぺえええええー!!」 あ、孝一がボコられてる、俺はその隙に逃亡した。 次のターゲットは俺だろうから。 と、俺がグラウンドの方を向くと、今度は松木が走る番だ。 「おーい!松木!頑張れー!さっきのお礼に応援するぞ。松木もやってくれよー」 俺は松木に声をかける。 松木はそれを感知し、俺に向かって微笑む、うっ…可愛いなあ… それから松木は他の女子生徒と共に走り出した。 なんだか早いな、勿論きちんと鍛えた生徒には及ばないスピードではあるが。 身体能力は平均らしいが早い走り方とか苦しくない走り方とかわかるんだろうな、頭が良いからそうゆう事で活用しているんだろう。 順調にペースを伸ばして松木が一番早く着こうとしている時、一人の女子生徒が転び、脚を軽くすりむき、血が出てしまっている。 松木はそこでユーターンし、その女子生徒の元へ向かった。 折角の一位がフイにになるんだろうが、俺はそんな松木の優しさに改めて魅了されていた。 「ほら、しっかりしろ」 「ま、松木さん…あのまま走れば一位だったのに…」 「私は痛いのが嫌いなんだ!痛いのは辛いぞ!悲しいぞ…だから…それが嫌なだけで…他人でも痛いのは嫌だ、だから私のわがままなんだよ、ほら、保健室行くぞ」 「松木さん、恥ずかしい台詞だけど、ありがと」 松木はそう言い、女子生徒の肩を持ち先生の方へ向かう。 別に相手は友人ってわけじゃなさそうなのに… 優しい面も見れたし、やっぱりわかった、俺は松木好きなんだよな。 俺はますます松木が好きになっていた、友人じゃない相手にも優しいからな。 周囲から松木を認める声が聞えてきて、何故だか俺まで嬉しくなった。 少しすると松木が戻ってきた。 「はは、私から応援しろと言ったのに悪いな、どうしてもほっとけなかったんだ」 松木がそう言い微笑む。 孝一は見慣れた様子だが、満足げに笑っている。 「ま、いいんじゃないの?暴力ふるうあたしが言っても説得力ないけどさ、そうゆう感情も大事よ」 「いやいや!むしろそれでこそ松木じゃないか…痛いのが嫌いなのもしっかりとした理由だろ? だからさ、俺嬉しいんだよ、好きな女の子がもっと好きになれて」 「それは光栄だな、嬉しい限りだ、それなら私は私の考えを貫こうかな?自身が持てた、ありがとう」 あ、恥ずかしい台詞だ…松木の癖がうつったか…でも、松木は喜んでるようだし、いいかな? 少し時間が流れ、中間テストの数日前。 プルルルと言う音と共に、俺の携帯に電話が入る。 携帯の液晶には松木恵美と出てきて、松木から電話が来たのが確認出来る。 「ん?どうした松木?何か用か?」 「瀬木、少しいいか?テスト前だけどな、少し見たい所があるから付き合ってくれないか? むしろ気になるから見ないと集中出来ないと思うんだよな、新しく出来たペットショップだ、いわゆるデートってやつだな、君の事知りたいから」 え!?マジ!?ペットショップ!?それは行かざるを得ない! 俺は猫が大好きだからペットショップとか聞くと最早反応せざるを得ないな… テスト期間だが大丈夫だな、それなりに勉強はしたし。 いざとなったら松木に教えてもらうから大丈夫かな? 「行く!行かせていただきますとも!」 「ふふ、ありがたいな、それにさ、気になる男の子と一緒にいてこそ私は力を持てるんだよな 愛や友情は人間を動かす大事なエネルギーだぞ」 ああ…また恥ずかしい台詞か…でも嬉しいな、そう言ってくれると。 俺の事好いてくれてるんだな、うん。 「おーい、瀬木、こっちだー」 松木は少し先に待っていた、春らしく涼しげなワンピースを着て、髪に花の髪飾りをしていてかわいらしさを演出している。 ああ、可愛い格好だな、俺と言えば薄いジャケットにジーンズをしっかりと着こんだぐらいだったからな。 基本的に服装にはあまりこだわらないんだ。 「よう!楽しみにしてたぜ!デートって事だしな」 俺は平然にしていたつもりだが、大好きな女の子とデートって事で顔が赤くなるのを感じていた。 「おっ…瀬木、なかなか格好良いじゃないか、クールで良いぞ、うん」 松木が真顔で俺を見てきて、褒める。 うっ…純粋な瞳が可愛いな、女の子にそう言われると自身を持ってしまうな。 「どうも、そう言ってくれるとファッションセンスに自身持てるな、松木もワンピース似合ってるぞ、花の髪飾り良いな」 と、俺が褒めると松木は静かに微笑む。 「そうか、ありがとうな、うん自惚れかもしれないけど私はそれなりに可愛いと思うんだ、 君がそう言ってくれたからな。私は可愛いって信じる事にするか」 俺のおかげで自身持てたって事か、嬉しいな。 胸の中が幸福感で満たされるのを感じていた。 「よし、ここだな」 松木と俺が向かった場所は、それなりに大きいペットショップだった。 犬とかの臭いもするが、俺は別に嫌いじゃないぞ、そうゆうのは。 ペットショップの内部には犬等が色々といた。 にぎやかな感じで楽しいな。 「うわー!このアメリカンショートヘアー可愛いぞ!」 俺はついつい猫に魅了されていた。 多分俺の目はキラキラに輝いているだろう、猫は好きだ。 しなやかな肉体に大きく見開いた瞳、とても可愛い、だから俺は猫が好きなんだ。 「可愛いな瀬木は、猫好きなのか、そうゆう男の子好きだぞ」 松木が真顔で言う、思った事素直に言ってくれるから良いんだよな。 でも…俺って可愛いか…前から思ったけど少し不思議なんだよな、松木って。 「いやはや、良いところに連れてきてくれて感激だな、うん!猫は良いよな」 「ははっ、そう言ってくれるか、私は犬も猫も好きだぞ、可愛いからな」 と、しばらく見て回っていると、松木が何かを目に止めたようだ。 それは、猫の絵が実写と見間違うぐらいだが、とても可愛らしく描かれているマグカップだった。 松木はそれを手に取る。 「なあ、瀬木、私それなりにお小遣い持ってるから買ってやるぞ、猫好きだろ?」 と、松木が言う、俺は彼女に何も買ってあげた事ないし、今は財布の中身には100円玉と1円玉が一つづつだけだった。 「うん、嬉しいよ。でもさ、女の子に何も買ってあげた事ないのに俺だけ買ってもらうわけには…」 「いやいや、気にするなよ、君の喜ぶ顔が見たいからさ、だから私の好意に甘えてくれ」 松木が俺の目を真っ直ぐと見据えて言う。 これ以上断るのもむしろ悪い気がするから、俺は好意に甘えさせてもらう事にする。 「うん、わかった、それなら俺も好意に甘えさせてもらおうかな?ありがとな、松木」 俺は自然と頬がゆるむのを感じていた、やっぱり、彼女を好きになってよかった… 「そうそう、男の子は素直なぐらいがいいんだぞ、それじゃあ買うからな、大事にして欲しいな、私が淹れたと思って飲んでくれよ」 それから、松木はプレゼント包装でマグカップを包んでもらって、俺に渡してくれた。 本人が目の前なのにプレゼント包装って…でも、温かいな、少し変わってる所は初めは正直引いたが、今ではそれも彼女の魅力と思えてきた。 俺は勿論そのプレゼントを大事にしまっている。 少し歩いていると、ゲーセンが目に入った。 そこの店頭に存在するクレーンゲームでは服を着ている猫のぬいぐるみがあり、松木が気になる様子で見ていた。 「ん?どうした松木?」 「いや…さ…私あれ欲しいんだが、どうにもクレーンゲームは苦手でな…どうしようか…」 俺は財布を見た、財布の中身は101円だけある、俺もどっちかと言うと苦手だが、やれるだけやってみようかな? チャンスは一回っきりだ。 「そうか、松木はあれがほしいのか…よし!待ってろ!俺が取ってみるから、マグカップ買ってもらっちゃったからな!」 「本当か?それなら瀬木に任せようか、男の子だからゲーム得意なんだろうな」 うっ!?しまった…俺が苦手だって事言い忘れてしまった…だからこそまたしても失敗は許されなくなったな… 大気に存在する精霊よ!大地よ!水よ!天よ!神よ!悪魔よ!風よ!盟約を結びし我に無限の力を!! 「せ、瀬木!?なんだそのオーラは!?」 松木は俺の体からの神聖かつ邪悪かつ不気味かつ美しいオーラの発生に驚いていた。 「さて…やるか…」 俺は気合を入れてレバーを動かす、対象に目掛けて向かっている…よし!狙い通りだ! だが、少し狙いがズレ、某有名RPGのスライムのぬいぐるみに引っかかった。 青くて目が大きく、あけた口元が可愛い人気のモンスターだ。クレーンはスライムを掴み元の位置に戻り、出口から出てきた。 「あーあ…すまんな松木、少しズレてしまった、うーん、女の子にはこのゲーム馴染みないかもしれないしさ」 「いや、気にするな、瀬木はがんばった、それに…それも可愛いじゃないか、良ければ私にくれないか? 元ネタ知らないけどな、前から可愛いと思ってたんだよ」 松木はまたもや真面目に俺を見据えて言う、本当に欲しそうだよな、俺に気遣ったとかじゃなくて。 「ああ、喜んで、取れた物は違うけどもともと松木にあげるつもりだったからな」 俺はそう言いスライムを渡した。 その時、松木はいつものように静かだが、楽しそうに笑っていた。 「うん、ありがとうな、一生懸命瀬木が取ってくれたからな、想いがこもっていて嬉しいよ」 松木は恥ずかしがらずにまた恥ずかしいセリフを言う。 はは、いつまでたっても慣れないと思うけど、嬉しいな。 俺は部屋でコーヒーを飲んでいた。 この苦味が好きだ。 勿論松木が買ってくれた可愛いマグカップでだ。 松木…可愛いな、考える度に胸が熱くなってくる。 とにかく可愛くて、少し変わってるけど真面目な性格で。 俺の事どっちかと言うと好いてくれてるのかな? 一緒にいると何でも一生懸命やる気になれるよな。 でも、俺はテスト期間が近いのに気づけば松木の事ばかり考えてしまって、勉強に集中出来なかった。 だから松木に勉強教えてもらうって事もしてないんだよな。 むしろ集中出来ないだろうから。 好きになった事はうれしいけど、俺ってひとつの事に集中したらそれしか考えられなくなるのかな… 俺は勉強出来るわけでも出来ないわけでもないから、きちんとやらないといけないのに… 数日後、テスト返却日の日。 俺は俯いて落ちこんでいた。 それは、テストの点数が散々だったから、今までは平均で抑えていただけに、ここで赤点は痛い。 松木の事で集中出来なかったからだ。 「ふう、まあまあって所か…二人はどうだ?」 孝一はそう言っていたが、国語は得意で、それ以上は平均の上を行っていたらしいので、良い方だろう。 「あたしはだいたいいつもどおりだね、うん」 加宮はダメな部分もあるが良い教科はとことん得意だから、点数は中々だろう。 俺と言えば、今回はほとんどが赤点で辛い状況だった。 「あ、俺か…うん…今回ダメみたいだ、少し遊びすぎちまったか、はは…」 俺は強がっていたが、その笑い方には覇気がなかった。 孝一も加宮もその様子に気づいたのか、何も言わなかった。 下手に何か言うと俺が傷つくってわかってたから何も言わないんだな。 もしかして…このまま松木と一緒にいると、学門に集中出来なくなるのか… そんな事を考えると、松木が教室に遊びにきた。 「やあ、もうテストも終わったしさ、遊びに行かないか?」 松木はまるでテストを苦にしてないような表情だった。 涼しげな表情をしている、でも、俺は反応出来なかった。 「恵美、今さ瀬木落ち込んでるから反応出来ないらしいんだ」 「そうか、でもそんなに気にする事じゃないんじゃないのか?次に頑張ればいいと思うぞ」 いつもなら楽しく感じる松木の声も、今は苛立ちしか感じなかった。 彼女は俺を慰めようとしているのはわかるけど…頭が良い奴に言われても… だって、遊んでたからこうなったんだ…逆恨みで格好悪くて男としては最低だとわかっているが、どうしても抑えられなくて俺は言ってしまった。 「松木…俺には勉強の才能ないんだよ!だからほっとけよ! お前と違ってさ!だから一回こうなったら立ち上がれるかわからないんだよ!俺はお前とは勉強のタイプが違うんだよ!別の事があったらそっちに集中しちまうんだ!」 俺は気づけば声を荒げ、力いっぱい叫んでいた、他のクラスメートも俺の方に振り向き、周囲は静まる。 「あ…あ…瀬木…ごめん…うん…私が押し付けてたんだよな…ごめんな…うん…ダメな女だよな、私、わがままでごめん…悪かった…」 松木は反論するかと思いきや静かに言い、いつもからは想像出来ないような切なくて泣きそうな表情をしていた。 松木は眼の辺りを抑えながら、教室を去って行った。 はっ!?俺は何をしてしまったんだ…あんな事を言ってしまうなんて…それも好きな女の子にだ… 俺は自分の行為に後悔し、打ちひしがれていた。 その時、頬に軽い衝撃が走った、そこには俺に対し憤りを覚えている加宮がいた。 怒りで拳を震わせていた。 「あんた…あんた…最低ね!どうしてそんな事言えるのよ!気持ちはわかるけどさ!恵美は不器用なのよ!なのになんで…」 女の平手打ちなんて大した痛みではないが、それ以上に心の… 「そう…だな…俺はガキだからさ…うん…」 俺はどう言っていいのかわからず、それしか言えなかった、どう言っていいのかわからないから。 「あ、あー!俺は説教出来ないし嫌いだから説教は出来ないからうまく言えないけどこれだけは言っておくぞ。 松木は不器用だしお前を困らせるつもりでも、自分のわがままってわけでもないだろうしさ。 それにさ、視力悪いのは才能はあるんだろうけど一生懸命勉強してたからだ、だから、これだけは覚えておいてくれよ」 と孝一は言い聞かせるように言う。 いつも眼鏡してるし、目が悪いのは一生懸命勉強したからなんだよな、大体予測はしていたけど。 正直俺だけ悪いなんて事考えられる程大人でもないけど。 もっと松木の事考えてやって気遣う、それが大事なんだろうな。 数日後、俺と松木は互いに気まずくなり、会う事はなく。 昼食の時にも会う事はなかった。 姿を見かけても互いに気まずいので話す事もなかった。 このまま自然消滅なんて嫌だ、俺の責任でもあるけど… でも、話しかけるのが怖いんだよな…互いに… 「ねえ、瀬木、もう少ししたら話してあげようよ、きっと向こうも話して欲しいはずよ?」 「ああ、わかってはいるんだけど…なんとなく出来ない事ってあるだろ?そんな感じなんだよ」 「なあ和彦は松木と仲直りしたいのか?」 「勿論だよ、ただなんとなく話しづらいだけでさ」 俺はそう孝一に言った、すると孝一は安堵したような表情で。 「そっか、それなら俺が何とかするから、後はお前でどうにかしろよ」 「あ、あたしも手伝うよ、このままじゃ後味悪いしね」 そう言い、孝一も加宮も誇らしげに言った。 俺は良い友人を持ったな、本当に。 翌日、俺は雨音で目を覚ました。 両親は今日仕事でいないから家には一人だけだ。 今日は雨の日か、大雨が降り注いでいて、外は水たまりが存在していた。 コーヒーがなくなっていたので、着替えて外に出る。 コーヒーがないと落ち着かないからな、コーヒーに依存しすぎているんだろうな、俺は。 傘を開き外に出る、俺は雨音等が嫌いではない、雨には独特の魅力があるからな。 俺はしばらく歩いていくとそこには見慣れた人影があった。 長い髪がびしょびしょに濡れて、折角のスカートも水浸しだ。 その娘は何故か傘を自分よりも別方向に向けていて、自分よりも何かを守っているようだ。 だが、驚いたのはそれよりも。 「松木!松木ぃ!どうした!?どうしてこんな事を!?」 そう、その相手が松木だったから… もうしがらみとか気にしてられなかった。 「ん?ああ…はぁ…はぁ…さっきから呼びかけてたんだけど…飼ってくれる人見つからなくてな…」 松木は顔を赤くしていて、息も荒かった、雨で風邪をひいてしまったようだ。 傘を置いてある方向を見るとそこにはダンボールがあり、そこには小さい子犬が震えていた、柴犬が入った雑種犬だった。 捨てられたんだろうな、かわいそうに… 生憎家ではペット飼えないから俺にはどうする事も出来ないけど…今はそれよりも… 「バカ!風邪引いてるだろ!ほら!こっち来いよ!でも優しいんだな、そうゆうとこ好きだ」 「瀬木…優しいな君は…」 距離的に近いので俺の家に松木とその子犬を連れてきた。 温かくするのが第一だと思うからな。 松木は犬と一緒にシャワーを浴びている。 浴室ごしからそのシルエットが見てとれる。 うっ…やばいな…緊急時なのに…胸の張りがあって細くてとても女の子らしい体格をしてるな… 俺は濡れた衣類を洗うために持ち上げてると青い下着にドキドキしてしまう。 カップのサイズ大きいな…やっぱ… だー!今は緊急事態だっつーに! 俺は松木の衣類を洗濯機に入れて洗う。 「ふう、あったかいな、ありがとう瀬木」 松木は感謝して俺に言う、声の調子でわかる。 「きゃん、きゃん」 「おお、そうかお前もあったかいか、良かったな」 犬と共に楽しそうにしているのがわかる。 「き、着替え…置いとくからな…俺のだから大きいと思うけどさ」 「そう、ありがと」 俺はしばらく松木がシャワーから上がるのを待って、それから松木と共に部屋にいた。 松木は少しサイズが大きいが俺のパジャマを身につけていた。 こんな状況で不謹慎だが、そんな松木のアンバランスさが可愛いと思える。 「大きいなこれは、でも瀬木の匂いがしてあったかい…」 松木はかみしめるように言った。 「俺の匂い?野郎臭いだけだと思うけどさ…今コーヒー切らしてるからこれだな、はい」 俺はそう言って緑茶を松木に渡す。 「いや、別にいいさ、私緑茶の方が好きだ、うん、おいしい」 松木は身体が温まるのを感じているのか、おいしそうに緑茶を飲んでいた。 犬は疲れたのか眠っている。 こいつもがんばったんだよな、小さい身体で生きてきて。 やすらかで可愛らしいな、ついつい見とれてしまう。 「ははっ、可愛いな、寝顔」 「うん、可愛いよな」 松木と俺は二人で犬の寝顔を見ていた。 もう以前のわだかまりもなかった。 「なあ、松木」 「うん?どうした?」 「一日ぐらいならどうにかなるからさ、明日飼い主探してみようか?」 俺は自分が考えうる最善の案を松木に言った。 その時、松木は本当にうれしそうにして。俺に抱きついてきた。 シャンプーの匂いや、温かさが伝わってくる。 「本当か!?和彦!和彦!嬉しいぞ!君は良い男の子だな!」 「わっ、松木…恥ずかしい…でも…いっか…」 俺は松木の腰を抱き、温かさを感じていた、もうわだかまりとかはなくなっていた。 俺は幸せな気分になっていた。 松木は腰を触られても不快ではないようでむしろ楽しげに笑っていた。 「ははっ、嬉しいから恥じらいなくしてしまったようだな、許せよ」 「ううん、むしろ嬉しいさ、俺にとっては」 「ふふっ、和彦のスケベ」 あれ?さっきから俺の事「瀬木」じゃなくて「和彦」って呼んでる気がするけど…気のせいかな? でも、そんな事よりも、やっぱり俺にとって松木は大事なんだな。 それを実感出来た、俺なんて平凡なダメ男で何も出来ないけど。 「やっぱ好きだよ、松木」 俺は、彼女が好きだと実感した。 加宮、孝一、手伝ってくれるって言ったのに無駄になっちまったな。 でもさ、お前らのおかげで俺は度胸がついたのかもしれない、ありがとう。 1週間後、犬の飼い主も見つかり、ランチタイムも日課になっていて。俺は充実した日々を過ごしていた。 勉強する時は今までよりも集中するようにし、わからない所は松木に教えてもらったりして。 今までの調子が戻ってきた。 そんな日々の中で、世界的、世間的には大した事じゃないだろうが俺にとっては世界が変わる程大きな出来事が起こった。 普通に登校しているある日の事だ。 そこに、松木はやってきた。 「おっ、松木おはよう」 「やあ、おはよう」 俺達はいつもの挨拶をかわした。 そこで松木は俺に話を切りだす。 「なあ、瀬木、前に好きだって言ってくれたよな、私の事」 「うん言ったよ、それで何だい?」 だが…今は校門を歩いている所だ…当然そんな話をすると人目につくが。 まあ、松木はそうゆう性格だからな、素直に告白したいのだろう。 恥ずかしいセリフを言っているのに表情は真面目な一色で照れはなかった。 俺の心臓はドキマギしている、どう言われるのだろうか… 「今更だけど…私から言わせてくれ、好きだ、恋人になってくれ!私が君を幸せにするかわりに君が私を幸せにしてくれ」 松木はじっと眼鏡ごしに俺の瞳を見据えて真剣に言う。 その可愛らしさに俺は魅了されていた、一見クールだけど可愛いな… もちろん…答えは決まってる! 「ああ!俺も好きだ!付き合え!」 俺は恥ずかしいが、力を入れて松木に言った。 あ…俺今この場所がどこなのか忘れていた… 流石に松木みたいに恥ずかしい事人前で言える度胸はないが、後悔なんてするかよ! その時、朝なので幸い人は少なかったが、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「いよーっ!おめでとーう!お幸せにー!」 「あら、良かったじゃないの、ふん!別にうらやましくないもの!彼氏がほしいなんて思ってないんだらねっ!」 それは、孝一と加宮だった、いつの間にか来てやがった…あとで青汁でも飲ましとくか…冷やかしやがって… 周囲の生徒も騒ぎだす。 だが、冷やかしもいるけど、本当に祝福してくれる奴もいるから、まっ、いっか。 「あーあ、恥ずかしい奴らだ、行こうか松木」 その時、松木はもじもじとしながら言う。 「なあ、和彦、私も君の事名前で呼んでるから、私も名前で呼んでくれ」 「ああわかったよ、恵美、それじゃっ!帰り遊びに行くか?二人っきりでさ」 「うんっ、そうだな、帰りまで楽しみにしてるからな」 俺と恵美はこの歳では少し恥ずかしいかもしれないが、手を繋いで校舎に走った。 温かい手の感触を感じる、俺の心にも温かい物が宿る。 俺は恵美の可愛さに魅了されていた。 やっぱり…恵美は可愛いな。 恥ずかしかったけど、これで俺達は一緒だよな。 普通の恋愛だけど、この恋愛は、俺にとって輝かしい物だ。 これからもずっと。 おしまい。 |