「ね……ちょうだい?」
 彼女の唇が艶かしく動き、その言葉を紡いだ。
 太陽が沈むまで、まだしばらくある時間のことだった。
 特に予定のない休日。僕達は、ソファで寝転がっていた。
「何を……ですか?」
 嫌な予感を覚えながらも、僕は極力平静に応える。
 その言葉の意味するところは明白だ。つまり……。
「貴方の、大事なモノ。美味しいモノを――ね?」
「で、でも……それは!」
「それは?」
 それは、
「まだ……早いよ。もう少し我慢しよう……頼むからさ」
「嫌。あたしは、今がいい」
「でも、ね?」
「あたしは、大好きな貴方のだから欲しいの。自分のじゃ嫌。貴方のじゃないと嫌なの」
 突き刺さった僕のモノを指差しながら、彼女は視線でも懇願してくる。
「お願い。あたしに……太くて立派なモノから頂戴」
 僕の手を握り、身体を寄せ、潤んだ瞳で僕を射抜く。
 互いの距離が近くなったことで、威力は増す。視覚、聴覚、嗅覚、触覚で、僕の理性へと揺さぶりをかけてくる。
 放置された残る一つの感覚を満たそうと、本能が語りかけてくる。
 いけない。このままでは負ける。彼女の魔力に屈してしまう。
 これは計算済みの言動に違いない。
 彼女は、僕がその目に弱いことを、誰よりも知っているから。
 しかし、せめて最後の悪あがきくらいは……。
「けどこれ以上は、取り返しがつかなくなるかも」
「あたし……もう我慢できない。収まりがつかない」
「く……もう、どうにでもなれ」
 僕は弱い。悪あがきは所詮悪あがき。大波の前のさざなみのようなものだ。
 僕はあっけなく彼女の前に屈し、その願いをかなえるために……。
 体勢を変え、動く。
 まずは、ソレを引き抜いた。

「はぁ……ん。ふぅ、美味しい」
「く、うぅ……無念だ」
 彼女は恍惚に囚われたように、静かに身体を震わせる。
 咽喉を鳴らし、体内へと受け入れる。
 白濁液が、口の端から洩れた。重力に引かれようとする一筋のそれを、小さく赤い舌が、可愛く舐め取る。
 舌なめずりする様が、妙に扇情的だ。一滴たりとも逃がさないというような気迫が、そうさせるのだろうか?
 対する僕は、自分の情けなさに打ち震えるしかなかった。
 何かに、あるいは誰か――彼女の行為か、それともそれを阻めなかった自分自身にか――に悔しさを覚え、僕は心中で涙する。
 拳が作られ、無意識に力が込められた。
「ふふふ、そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。――あたし、貴方の好きよ?」
「でも、僕は……。僕はね」
 僕の言葉を遮り、そっと優しげな声で彼女は告げる。
「いいのよ。あたしの我が侭なんだから、気に病むコトはないわ」
「それは、そうだろうけど――」
 でもやっぱり、

「野菜は、もっと熟してからのほうが良かったんじゃないかな」
「……だって、あたしが作ったの、尽く失敗してたんだもの」
 ベランダの家庭菜園に目をやる。
 ささやかな趣味として、どっちが美味しい野菜を作れるか、競争していたわけだけれども……。彼女は、こういうことに意外と不器用な性質だった。
 ちなみに。夕食のメニューは、僕特製の獲れたて野菜のクリームスープだ。
 あのあと、一番よく育っていたモノを収穫させていただきましたよ。ちぇっ。
「それに、まだまだ残ってるでしょ? そっちは我が侭言わないから、一番美味しい時期にさ」
「やー……意外と量を使ったからね。危うく全滅するところだったよ」
「む。それは悪いコトしたかも」
 さすがに、ちょっとは反省してくれたようだ。善哉。善哉。
「美味しいものは、出来るだけ長く楽しみたいし」
 速攻で前言撤回。反省してないよ、この人。
「…………ま、いいか」
 何にせよ、美味しそうに食べてくれるのは、作り手として嬉しいものだ。
 舌鼓を打つ彼女の笑顔は、濁った気持ちを吹き飛ばしてくれるだけの力がある。
「今度は、一番美味しいのを食べようね」
「うん」

 こうして、何事もない夜は更けていく。




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