「私達も他人のことは言えんが、新年早々から混雑承知でご苦労様だな。」
そんな不満をこぼしながら彼女はオレの腕に抱きついてくる。
「今日は家でゆっくりして、初詣は明日にしとけばよかっただろう。」
「分かってないな。年が明けて色々やることがあるんだから、こういう疲れる行事は先に済ませたいだろ?」
お互い実家に帰らず一緒に年越しして、朝起きたら始めに言われた言葉は「おはよう、では初詣に行こうか。」だった。初詣はいいんだけど、起きてすぐじゃなくてもう少しタイミングを読んで言って欲しい。
「でも、人が多いとこうやってくっついていられるから良いものだな。普段はこうやって密着して歩く事なんてないからな。」
「し、仕方が無くだからな。くっついていないとはぐれてしまったら面倒だろ。」
「そうだな。でもこうやって歩くと暖かいな。雪も降っているのに。それに君を感じられて幸せだ。」
「きょ、今日だけ特別だからな。普段はあんまりベタベタくっつくなよ。まわりが引くし。」
「む、そうか。なら帰るまでこのままでいいか?ずっと人ごみだし。」
「……勝手にしろ。」
ちょっとお参りに来ただけなのに、えらく疲れてしまったのは人混みのせいだけじゃないんだろうな。

「帰ったらテレビ見ながらゆっくりするか。」
「何を言ってるんだ。帰ったら姫始めをしなければいけないぞ。」
「それは明日だ。」
「なら、日付が変わったらすぐ始めよう。早く君と愛しあいたいんだ。」
「わー、っていうかこんなところでそういう事を言うな。」

新年早々まだまだ疲れは溜まりそうだ。


結局部屋に帰るまで彼女はべったりくっついていた。
帰り道ずっと気恥ずかしかったが、結局最後まで離れろとは言えなかった。
「やっぱり、ちょっと離れろよ。」と何度も言いそうになったのに彼女の感触が名残惜しくて言葉が出てこなかったのは、オレも本当は彼女とくっついていたかったという事だろう。
「子供みたいだな。」
そんな気持ちに気付いたら思わず口に出てしまった。
「む、子供とはなんだ。ふん、甘えん坊の子供でいい。だからベッドの中でたっぷり甘えてさせてもらうぞ。」
「だから、外でむやみにこういう話をするなって。」
彼女はこんな性格で、いつも気を抜いたら振り回されてしまう。告白された時はこういうことを言うような人だとは思ってなかったんだけどなぁ。
「ん、難しい顔して何を考えていたんだ。」
「いや、告白された時の事を思い出して。」
「うん、あの時は本当に緊張した。『好き』という一言がなかなか出ないのが苦しかった。」
思い出してちょっと恥ずかしそうにうつむいたのは、あの日の彼女と同じだった


相談がある、君にしか話せないから二人っきりで話したいと空き教室に呼び出された。始めはなかなか話を切り出せず彼女ももどかしかったのだろう。本当に困った顔をしていてしばらく黙ったままだった。
そんな彼女にこのまま黙ってても話が進まないし、オレにできる事なら協力してやるからと促したら、始めに出てきた言は「どうしよう、好きなってしまったんだ」だった。
「え、誰が。」
「うん、だから君が好きなんだ。友達としてではなくて異性として。」
目を合わせられずにいた彼女が真っ赤だったのは夕日のせいではなかっただろう。それと対照的にオレは驚きの方が大きかった。
「オレが?どうして?」
「分からない。でもこの気持ちは多分恋してるって方の好きなんだと思う。」
そう言われてオレも恥ずかしくなってくる。
「私と恋人として付き合って欲しい。一緒に食事したり、話をしたり、しょうもない事で笑ったりしたい。友達としてではなく恋人として。」
オレもちょっと前から彼女が異性として気になりだしていたから本当は嬉しかった。大喜びでO.K.したかった。でも少しの沈黙の後に出てきた言葉は
「しょ、しょうがないな。そんなに言うなら付き合ってやるよ。べ、別にお前の事嫌いじゃないし。」
だった。こんな場面で素直になれない自分がちょっと嫌だった。意地っ張りだ。
「本当にいいのか?こんな私で。色気の無い女で。」
「いいんだよ。それにその…、オレはそこそこ美人だと思うぞ、おまえは。」
それでも、そんな返事でも彼女には十分だったらしい。泣きそうな顔をして抱きついてきた。
「よかった。もしもダメだったら、友達にも戻れなくなったどうしようか考えたら怖かった。夜も眠れなくなりそうだった。ありがとう。」
「……、いいんだけどこの場合は『ありがとう』じゃ変だろ。」
「そうだな。これからは君の彼女だ。よろしく。」
「うん、よろしくな。」
そう言って抱きしめると彼女は恥ずかしそうにうつむいていた。



「あの時は守ってあげたいなんて思ってたんだけどな。」
「む、今は違うっていうのか?」
「いや、別の意味で色んなものから守らねばとは思っている。」
「なんかひどいコト言ってないか。私は君をこんなに大事におもっているのに。」
「ほどほどにしてくれ。」
「湧きあがる君への想いは止められない。」
いつもこの調子で疲れる事もあるが、変なところで天邪鬼なオレにはこのくらい積極的な方があっているのかもしれない。こんな二人で今年も楽しくやっていけたらと思う。

「さて、今夜必要なものも買ったし今年初めてを楽しもうじゃないか。」
「いったい何を買ったんだよ。」
「うん必要最低限のものだ。ほら。あと、いざというときのために安産のお守りも買ったから準備万端だ。」
「そういう準備は要らん。…っていうか買い物袋の中にゴムが入ってないんだけど。」
「今年初めてなんだぞ。君の熱い想いを直接私に注いで欲しいな。」
「……。ゴム買いに戻るぞ。」
「いいじゃないか。今日は君の熱い想いを直接受け止めてあげるぞ。」
「ダメだ。本当にお守りのお世話になったらシャレに成らん。」
「そのためのお守りだし、私は別に……。」
撤回。やっぱりほどほどにして欲しい。
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