新年を迎えてからすでに10時間はたとうとしていた。つまるところ朝10時。 俺は炬燵に体をもぐりこませて頭だけちょこんと出した、いわゆるコタツムリ状態の、 恋人であり幼馴染の夏美と対峙していた。 「なぁ?初詣・・・行かない?」 もうこのセリフを言うのは何度目だろうか。そして次のセリフを聞くのも、もう何度目か。 「魅力的な提案だが・・・もろもろの事情の故、辞退させていただく」 「もろもろの事情って、単に寒いだけだろ」 「そうとも言うな」 「寒がりすぎるんだよ。厚着すればいいじゃん。行こうよ」 「今外に出たらせっかくの温めた炬燵や部屋が冷えてしまうだろ」 「付けたまま行けばいいじゃん」 「電気代の無駄だ。火事になったらどうする」 「一日中暖房付けっぱなしのほうが電気代無駄じゃないの?」 「無人か有人かでは大きな違いだ」 ただの屁理屈だろそれ。と言いかけた言葉を何とか飲み下す。 「そんなことよりせっかくなんだから、炬燵で姫初めというのもいいんじゃないか?」 「姫初めならつい数時間前に済ましただろ」 「・・・チッ」 「あからさまに舌打ちすんなよ」 「とにかく、いくら冬馬の頼みでもそれは了解しかねる」 「んじゃあいいよ。俺一人で行って来るから」 「うむ」 毎年似たようなやり取りを繰り返して、結局俺が一人で初詣に行くことになる。 これも今年で何度目だろうか。 来年こそ一緒に初詣できますように。このお願いをするのも、もう何度目か。 「・・・ックショイ。帰ったら炬燵で暖まろう」 「さて、そろそろ冬馬が帰ってくるか」 時計を見る。距離や例年の参拝客の混み具合から考えて、大体あと少しで帰ってくる頃だ。 ふふふ。どれだけ体を冷やしてくるのか楽しみで仕方ない。 なお、誤解があるようだが言っておく。私は断じて寒がりではない。 寒がりという事にしているのは、冬馬を一人で外に出す方便だ。本当の事情は別にある。 思えば、あの時。学校行事でスキーに行くのを楽しみにしていたのに、直前で怪我をしていけなかった私。 スキーから帰ってきてすぐ、私を見舞ってくれた冬馬の冷たく冷えた手が、気持ちよかった。 そして温かくて気持ちいいと言ってくれた冬馬。それから冷えた冬馬の手を温めるのが癖になってしまった。 出来れば初詣を一緒に行きたい。だが、それでは一緒に冷えてしまって温められなくなる。 一緒に温まるのではない。温めるのだ。この違い、素人には判わかるまい。 去年はお腹で温めたな。今年はどうする。やはり妥当なところは熱をよく持つ乳房だ。 幸いにも大きめの乳房を持つことが出来たから、その熱量はお腹の比ではない。 だがいきなり乳房に誘導するのは下心があると感づかれて拒否される可能性がある。 やはりここはお腹からゆっくりと誘導するのがベターか。うまく誘導できれば、あわよくばそのまま・・・ 「夏美の胸って、温かいんだな」 「もっと強く、触ってもいいんだぞ」 「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」 「あっ・・・」 「わ、わりぃ。強すぎたか?」 「違う。冬馬の手が冷たくて、気持ちいいんだ」 「夏美っ」 「あん」 そしてしっぽりと・・・。 「ただいまぁ。あ?温けぇ?この部屋」 っと、妄想しているうちに帰ってきた。 頬や鼻の頭が赤い。手袋を外す指先の動きが緩慢になっている。 うん。温め甲斐のあるよい冷え具合だ。 「お帰り、冬馬」 さぁ存分に温めてやる。 /** おしまい **/ |