????????????????????????????????????????
 僕はホットパンツから伸びる先輩の長い足の白さにドキっとしてしまった。
 料理をするからなのか、先輩は長い髪をポニーテールに纏めていて、眼鏡もいつもの鋭利な印象の
フレームレスじゃなくて、黒縁で厚いレンズという普通の眼鏡をしている。
 先輩の普段着はなんていうか、いつもの生徒会室でみるのとは全然違って、可愛いというか女の子らしいというか。

 馴れた手つきでエプロンの紐を結ぶ先輩。あれ。そのエプロンさっきのとはまた別の。
「ああ、二種類用意していたんだ。レースやフリルの多いあのエプロンは可愛いが、あまり実用的ではないのでな」
 勝負エプロンですか。でもそっちも可愛いですよ。

「……同感だな」
 そう仰っているのは先輩のお父様で。
 さっきから先輩のお家の居間で、こうして差し向かいに座っているのは先輩のお父様の令一さん。
 そういえば先輩、さっきお家の人がいないって言ってませんでした?と先輩に耳打ちすると
「言ってないぞ。両親ともキミに会いたがってるから大丈夫だ、と言ったつもりだが」
ああ、やっぱり先輩は天真爛漫なんですね。


 ええ。いらっしゃるんです。先輩のお父様が。リビングのテーブルを挟んだすぐ向こうに。
「福島君といったね」
 ヤバい。さっきとはまったく別の意味でヤバい。
『君みたいなトウヘンボクが、なぜ私の娘と付き合っているのかね?』
とでも言いそうな感じ。
 わりと細身で長身でいらしゃる先輩のお父様。
 和服を着て、横文字の新聞を見ながらTVニュース(これもCSなのか英語)をご覧になっていたりするお父様が。
 ウチの親父だったら夕食前にはジャージとか着て座布団枕でナイターとか見てるんですが。
 先輩のお父様ときたらシルバーフレームの眼鏡に粋な和服(なんていうのかは知らない)をバリっと
着ていらっしゃって、NYTimesやら読めない字の新聞(英語でもないヤツ)を読みながら食前のお紅茶とか
飲んでいらっしゃるんです。



「は、ハイ」
 裏返りつつある声でそう答える。

「静香のどこが気に入ったのかね?」
「え、あの、その、すごく真っ直ぐなところです。あと、いつも真剣で真面目なところとか、
どんなことにも全然動じないところとか、その、あの、ええと、とにかくイイと思います」
「そうか」
 先輩のお父様はそう仰ったまま、新聞に目を落とす。


・・
・・・
・・・・
・・・・・
 痛いくらいの沈黙。
 重いです。
 続きのキッチンで嬉しそうに直子さんがなにやらはしゃいでいる声が大きく聞こえます。
 ボスケテー!!

 そう思っていた僕の耳に、先輩のお父様の令一さんの声が響く。
「私も同感だ」



 そういうわけで、先輩のご両親と食卓を囲んでいる。
 長方形のテーブルの長辺に、令一さんの横に直子さん。
 先輩の横に僕。そういう配置で。

 それにしても、先輩のご両親は仲睦まじいというか、いささか歳に似合わないほどベタベタしているというか。
 それでも先輩のお母様の直子さんがなんというか、少女っぽいせいでアイタタタな感じは全然しない。

 口数が多い先輩のお母様の直子さん。
 うなずくくらいで寡黙なお父様の令一さん。
 でも、たまに直子さんの顔を見るときの令一さんの目はなんというか、びっくりするくらい優しげで。
 令一さんカッコいいなあ。
 こんなカッコいいお父様と僕は比較されちゃうのか?と思うとなんだか気が重くなってきてしまう。

 そんな僕の表情に気づいたのか、直子さんが明るい笑顔で僕に話しかけてくる。
「福島くんのお母様はピアノの先生でいらっしゃるのよね?」
 え。なんで知ってるんですか?・・・・・・あ、先輩がいろいろ仰ってたんですね。
 でも、なんか誤解されてる気がする。
「いや、そんなたいそうなもんじゃないです。
 パートで市民会館での『日曜こども音楽教室』とかの講師をしてるだけだし、ウチにピアノなんてないです」
「でも、ピアノがおできになるってステキね。私も令一さんも楽器はできないし。静香はピアノもヴァイオリンも
興味を示さなかったのよ」
「彼の歌はなかなかのものです。きっとお母様からの遺伝なのでしょう」
 先輩、僕が歌ってるの聞いたことあるんですか?
「キミの友人から聞いたのだ。駅前のカラオケ館で90点を出したそうじゃないか」
 …石川。お前は先輩のスパイだったんだな。あとでシメてやるっ。

「じゃあ、その遺伝子が静香ちゃんのタマゴとうまく結びつくといいわね」
 味噌汁吹いた。

 むせてしまう。
 ゲホゲホと咳き込む僕。
 盛大に気管に入ってしまったじゃないですか。
 あ、せんぱい、いや、その、エプロンで顔拭いてくれなくても。
「あ、その、いやその、それはちょっと気が早いっていうか」
 全身から汗を流しながらそう返すのがやっとで。
「え?。そうなのぉ??」
 不満そうな直子さん。
「そうだな」
 と令一さん。
「私たちは静香を授かるまでに五年待っただろう。静香たちにもそれくらいの時間が必要だと思う」
 令一さん、「たち」って!?
「そうですね。私が経済的に自立するまでは子作りはガマンします」
 と先輩。…ガマン、って?

 なんだか深く考えるとマズい気がするので僕は皿の上のアスパラのベーコン巻きと
ささみチーズカツに集中することにする。



 すると先輩の嬉しそうな声。
「美味しいか?」
「はい。美味しいです」
「よかった。まだまだあるからもっとたくさん食べるといい」
 といって先輩は僕の皿に自分の皿から山盛りにささみチーズカツを分けてくれる。
「育ち盛りなんだからたくさん食べなきゃダメよ?」
 なんで先輩のお母さんは30過ぎ(あんまりそうは見えないけど、先輩という娘がいることからどう考えても
そうだろう)でこんなに可愛らしく言えるんだろう?と思う。
 ウチの母親なんかもうカンペキなオバちゃんなのに。
「ああ。たくさん食べて私よりも大きくなってもらわないとな。
 あ、いやもちろん今のキミが背が低いから頼りないなんてことは全然思ってないぞ。
 今のキミはキミで凛々しくて可愛らしくて愛しい限りだ。
 ただもっと身長が伸びたら私も念願だった『背伸びしてキス』ができると思ってな」
「まあ。静香ちゃんったら」
 と可愛く言う直子さん。
「ね、あなたと初めてキスしたときのこと、覚えてます?」
と少女みたいな口調で令一さんに尋ねてる。
「ああ。もちろんだ」
 令一さんが若山弦蔵ばりの渋い声で答える。
「私が高校二年の体育祭の時だったな。お前は中等部の二年で、チアガールの格好をしていた」
 シルバーフレームの眼鏡をキラッ☆と光らせて令一さんが仰る。

「令一さんはとってもステキでね。当時から大人気だったのよ。中学生だった私は見向きもされてなかったの」
「ええ。それは何度も聞きました」
と先輩。
「それでね、令一さんの好みを調査してね、チアガールが大好きだって判って。中等部と高等部合同の体育祭には
チアガールのコスプレをして応援に行ったのよ♥」
 語尾にハートマークのつくような愛らしさで言ってのける直子さん。

「ああ。あれには参ったな。ただの妹みたいな子だとしか思っていなかった直子を、初めて女の子として
認識してしまったよ」
 令一さんもクールに返している。
「令一さんたらもうメロメロでね。私が抱きついてもそれまでとは違って逃げようとはしなくて。
おかげで私はファーストキスを捧げることができたのよ」
 女の子みたいに頬を染めながら直子さん。
「私も初めてだったんだがね」
 と、クールに令一さん。
「私も今日のがファーストキスでしたよ」
 と、張り合うように先輩が言う。
「まあ♡ステキね!」
 いいんですかお母様?
「良かったな、静香」
 お父様まで!?
 その場のヘンな雰囲気に当てられたのか、なんとなく僕も言ってしまった。
「あ、えーと、その、僕も初めてでした」
「良かったわね、静香ちゃん」
「はい」
「全員が初めて同士ということになるな」
「そうね♡」
 はっはっは。うふふふ。フフ。


 ナニこの空気!?
 でも僕も、なんだか可笑しくなってその笑いに加わっていた。気がついたらいつの間にか。


 でも、なんとなくわかった。
 長野先輩は、この二人の娘なんだ、ってことが。
 お母さんの直子さんみたいにおかしなくらいド直球な素直さで。
 お父さんの令一さんみたいに何にも動じることなくクールで。


 顔の前に箸でつままれたささみチーズカツが差し出される。
 先輩の真っ直ぐな視線が僕を見つめている。
 だから、僕はその視線を真っ向から受けて、口を開いた。

 ん。やっぱり美味しいです。
「ま。いいわねえ」
 直子さんもそんなことを言いながら令一さんにチーズカツを差し出して「あーん」とか言ってる。
 令一さんは顔色一つ変えずにそのカツをぱっくんと食べている。

 なんていうか、すごいなあ。






 まあそんなこんなで、食後のお茶とデザートの自家製プリンまで頂いてしまったあとで先輩が言った。
「泊まっていったらどうだ?」
「あ、いや、その、母が心配しますので」
 これ以上先輩のご両親のラブラブっぷりに当てられてたらなんだか先輩とマズいことになりかねない。
いや、本当にマズいことなのかどうかということもだんだんぼんやりとしてきてしまうわけですけど。


「…スキンが無いんだったら私たちのを分けてあげましょうか?」
と、うれしはずかしそうな直子さん。
「!!!!??そ、そうじゃなくってですね」
「お母様。彼は意外にロマンチストなのです」
と先輩。
「静香。男の子というものは基本的にロマンチストなものだよ」
とクールに令一さん。


 やっぱり、なんかこのファミリーはヘンだ。
 ヘンだけど、不思議に不快じゃない。
 だんだん染まってしまうような。
 それが正常だ、と思えてきてしまうような。

 そんなこんなで、先輩のお家をお暇したのはもう22時を過ぎてしまった頃で。
「私が車で送っていこう」
 と、令一さんが仰って下さったらもう固辞することなんかできず。
 左ハンドルのドイツ製高級車の助手席に乗り込んだあとで
「では私も」
 と先輩が僕の後ろの席に乗ってきたわけで。


 ところで。
 車の助手席に乗りながら、後部座席から運転者の娘さんに首筋を撫でられたり
手を握られたり耳元に息を吹きかけられたことがあるだろうか?


 僕はある。
 そしてそんなとき、どうしたらいいか?ということには正解なんてないってことも知った。


「あ、あの、今日はどうもありがとうございました」
 と令一さんにお礼を言いつつ、ドアを閉めた。
 ボスッ、と低くていい音をして閉まるドアはやっぱ高級車だなあ。
「いつでも遊びに来るといい」
と、令一さんが仰ってくださってるのは社交辞令なんかじゃないってことはよくわかる。

 なんだか一気に、たくさんハードルを飛び越してしまった気がする。
 先輩に告白されたのはついほんの4時間前だっていうのに。

「ん。本来ならば、キミの親御さんにご挨拶をせねばならないところなのだろうが。
 でも、こんな夜分遅くに伺ってもご迷惑だろう。ご挨拶はまたの機会にしようと思う」
と先輩。
「じゃあ先輩、令一さん、お休みなさい」
「ああ、お休み」
と令一さん。
「…」
 先輩は後部座席から出てくると、僕のことをぎゅっと抱きしめた。
 せ、先輩!お父様の目の前!っていうか!
 そのまま僕の頬に両手を添えると、深々とキスをしてきた。

 ねっとりと。
 いい匂いのする。
 すべすべの掌の。
 髪の毛が頬に触れて。
 つるつるの歯の感触が。
 唾液の熱さが。




 唇が離れるときにはちゅぽん、と音がしそうなくらい深いキスを終えた先輩は
ほのかに頬を染めてるような気がした。


「おやすみ」
 そう言って助手席に乗り込んだ先輩を見守る僕。
 クルマが国道への交差点を曲がるまでぼーっと手を振ってた気がする。


 ふにゃ、っと膝が曲がってしまう。
 先輩とキスしたんだなあ。
 っていうか、今朝学校行くまではそんなことも想像しなかった。
 恋焦がれてた先輩とじつは両想いだったってこと。
 そんな先輩のファーストキスを受け入れたってこと。
 同じくそれを捧げたってこと。
 先輩のご両親と会って、いろいろ話したこと。
 先輩がこんなに大好きだって改めて気づいたこと。
 なんていうか、星空がバラ色に見えるくらいに僕はどうかなってしまっていた。

 そんなバラ色のなか、ほんの小さなため息を一つ吐く。
 困ったことは一つだけある。
 ウチの両親にどうやって話したもんだろうか。
 静香先輩の両親ほどウチの親はくだけた感じじゃないんだよね。



 さすがに女の子じゃないから、そこまで厳しくはないだろうけど。
 どうやって彼女ができたって打ち明けたもんかなあ。

 そんなことを考えながら、マンションというよりも団地の一階の我が家のドアを開けようとした瞬間、
その細く開いていたドアが閉まった。

 その内側にはドタドタと走る音。
「おかーさーん!にいちゃが、おとなの女のひととチューしてた!!」

 慎一ィッ? あああああ、見られてたのか!
「あのね、おっきなくろいクルマからおりてきた女のひとと、にいちゃがチュ??って!チュウウウウウーーって!」
 叫ぶんじゃないっ! っていうか、なんて説明すればいいんだっ!??

?????????????????????
たぶんつづく
ラブラブなエチシーンはたぶん次回



動画 アダルト動画 ライブチャット