とても、不思議な世界だ。
俺と朝陽は少し風の強い中、緑の草原が広大に続く、
そんなとても広い土地の少し高い丘に来ている。
季節は夏で、朝陽はしゃがみ込むと少し顔を上げて空を見る。
そこには、とても幻想的な風景が広がっていて。
朝焼けの中に何処までも続いていく深い蒼の空と雲と、
まるで宝石のように散りばめられた色取り取りの星々が、
一つの絵のように、とても美しく眩しく、俺の目の中に飛び込んできた。
少しして、僕と朝陽を、暖かな優しい光で太陽が照らしてくれた。
??太陽が、朝を告げに来てくれた。

朝陽の綺麗な薄い青の長髪が、風と共に揺れて、
太陽の光が、彼女をより一層美しく見せてくれた。
俺は隣で、彼女と共に居れる事が何よりも嬉しくて。
俺と朝陽は何処までも続いている幻想的な空を、ずっと眺めていた。

??という妄想をしながら、俺は弓道部の練習に没頭していた。

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風が気持ちいい。単車をいつもの様に走らせる。
風景には何も無く、草原がずっと続いている。
私は少し急いでいた。
愛し麗しの白河君を待ち伏せする為だ。
ストーカー?何を言っている、これは愛情表現だ。
彼と会うのが楽しみで仕方が無い。

すると後ろから大型車がゆっくり近づいて来る。
あぁ、姉さんか。そういえばサーフィンの約束をしていたな。

「希」
「放課後も行くの」

「あぁ、姉さんも平気?」

「いいよ、でも勉強もちゃんとやりなさいよ」

「わかっている」

私はそれからして、学校についた。
単車のミラーで身嗜みを確認して……よし。
荷物も持って急いで向かうことにした。
白河君の居る場所へ。

白河君はいつも弓道場で練習している。
私は木の陰に隠れて機会を待つ。よし。

「あぁ、おはよう」

「おはよう、白河君、今朝も早いんだね」

「宮森も海に行ってきたんだろ?」

「ま、まぁな」

「へぇ、頑張るんだね」

「あ、あ、……そ、それほどでもないぞ」

「ま、また後で会おう白河君」

「?あぁ」

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「いいか」
「そろそろ決める時期だぞ」
「月曜までに提出だからな」
「ご家族とよく相談して書いてくるように」

私の机の上に、進路希望調査票。
やれやれ、なんとも面倒な事だ。

昼、私は知り合いの友達達と昼食を食べている。
いつもの事だが、どうも雰囲気が違う。
どうやら皆それぞれ進路が決まっているようだ。

「佐々木さん」
「東京の大学に行くみたいよ」

「さすが」

「あたしは熊本の短大かな」

「希は?」
「確か外国の大学に呼ばれてるんだっけ?」

「わからん、むしゃむしゃ」

「あんた本当何も考えてないのね」

「白河君のことだけね」

「あいつ絶対東京に彼女いるよ」

「そんなぁ」

「ふふっ」


キーンコーンカーンコーン...

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放課後、私はいつも通り海に来ていた。
ここの所中々波に乗れず、スランプになっていた。
白河君の事と同じような感覚だな。

「まだうまく行かない?」

「あぁ……どうしたものか」

「あんまり悩まないほうがいいよ」
「そのうちまた乗れるわよ」

「姉さんは気楽で良いな」

「なに焦ってんのよ」


「このままでは」
「卒業式までに、言えない……」

私は姉さんの車で学校まで送って貰った。
無論、白河君と共に帰るためだ。

「ありがとう姉さん」

「送っていくわよ?」

「いや、単車で帰る」

今日も待ちに待った時間が来た。
少しばかり時間を待たなければならなくなるが……。
それもまた一興、白河君を待つこと数時間、
やっとお目当ての白河君が来た。待ったぞ、実に待った。

「宮森、今帰り?」

「あぁ、白河君はどうなんだ?」

「うん、一緒に帰らない?」

もし私に犬みたいな尻尾があるとするならば、
きっと嬉しさを隠し切れずプンプンと振ってしまったと思う。
あぁ……
「私は犬じゃなくてよかったな」なんて、
ほっとしながら思い、そいうことに、
我ながら「バカだな」と呆れて。
それでも白河君との帰り道は、幸せだった。
最初から、白河君は他の男の子達とは
どこか少し、違っていた。

??では、自己紹介をお願いしますね。

??白河智樹です。親の仕事で転校には慣れていますが、

??この島にはまだ慣れていません。よろしくお願いします。

中学二年のその日のうちに恋に落ちて、
彼と同じ高校に行きたくて、勉強頑張って、
合格して、それでもまだ白河君の姿を見るたびに、
もっと惚れこんでしまって、それが怖くて、
毎日が苦しくて、でも会えるたびに幸せで。
それが自分でもどうしようもなかった。

帰路の途中にある、小店に私達は良く寄っていた。

「白河君また同じ物だな」

「あー、これ?これ旨いんだ」
「宮森は、なんかいつも真剣だよなぁ」

「ん?そうか、そうだな」

「先行ってるぜ」

「え、……あぁ」

「これ下さい」

「90円ね」

「はい」

「いつもありがとね」

買い物を終えて、小さな駐車場に戻ると、
白河君が携帯を触っていて、それが何故か怖くて。
少したじろいた体を持ち直して歩み寄る。

「……おっと、何買った?」

「あぁ、迷ったんだが??」

白河君は時々誰かにメールを打っていて、
そのたびに私は、それが私宛のメールだったらと、
どうしても、いつも、思ってしまう。


「わんお!わんわんお!」

「ブーン、帰ったぞ」

「わんわんお!」

「おぉブ?ンブ?ン、帰ってきたぞ」


「……」

「宮森、それじゃ」

「あ、あぁ、ありがとう、気を……付けて」

「おう」

私は、いつまで、夜空の光に照らされて、
いつまでも、白河君を見送った。

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≪3年1組の宮森希さん≫

≪伊藤先生がお呼びです≫

≪生徒指導室まできてください≫

夏の昼、俺はクラス最後尾の席で細々と昼飯を食べていた。
どうやら宮森が呼ばれたらしい。頭のいい奴は大変だ。

「白河の彼女じゃん」

前のクラスメイトの言葉がすっと俺の体を通り過ぎる。
すまない。俺はお前の話は聞いているようで聞いていないんだ。

「…彼女とかじゃないよ」

そう、宮森とはそんなものではない。
仮に彼女が0.1%の確立で俺に気があろうとも、
いや、お嬢様でスポーツ万能で頭の良い彼女にはありえない。
それに、俺には??

???????
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「学年で出してないのは宮森だけだぞ」

「すみません」

「はぁ…あのな、こう言っちゃなんだがそんなに悩むようなことじゃないんだよ」
「お姉さん…じゃない、宮森先生はなんて言ってるんだ?」

「……いえ」

「お前には色々な進路が用意されているんだぞ?」

「……しかし」


……今日も、進路の事を言われた。
正直、心地の良いものでは無かった。
まったく、何も、わからないんだ。

「……姉さんは関係ないだろう」



「よし、今日こそはッ」

放課後、少し荒れた海の波に私は乗ろうとしていた。
ここの所全く波に乗れない。落ちてばかりだ。

「ッ、しまった」

失敗。波に思い切り私は飲み込まれた。
しかしこれももう慣れている。さぁ次だ。
もう一度波に乗ろうとするが、やはり乗れない。

「……あがるか」


……だって、
姉さんにねだって始めたサーフィンも。
一番大切だと思うあの人のことも。
私はまだ……まったく??

???????
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今日も、白河君を待った。
けれど……中々来ない。
しかたない。今日は一人で帰ろう。
私は単車のエンジンをかけ、あの小店に単車を走らせた。
普段なら、隣に白河君が居る。幸せだ。
けれど今日は、虚しい。


「いつもありがとね」

「いえ、それじゃ」

私はジュースを買ってそのまま帰路についた。
たまには、こうやって一人風に涼んで帰宅するのも悪くないと考えていた時。
道端に、見慣れた単車が……白河君のものだった。
私は、直ぐに降りてその先にある広い草原の丘へと向かった。
少し歩いていると、携帯のバックライトが見えた。
白河君だった。……けれど、その表情は何処か物悲しいもので。
でも、それでも。

??白河君がいる場所に来ると

??胸の奥が
??少し
??苦しくなる



「白河君」

「宮森」
「よくわかったなぁ」

「ふふ、白河君の単車があったからきてしまった」
「いいかな?」

「うん」
「今日は単車置き場で会えなかったからどうしたのかと思ってな、はは」

「ふふ、私もだ」

彼は優しい。
時々泣いてしまいそうになる。

「な、白河君は受験をするのか?」

「あぁ、東京の大学受ける」

「……東京?」
「そうか……」
「……ふふ、そうだと思ったよ」

「どうして?」

「遠くに行きたい。そんな顔をいつもしているからね」
「なんとなく、予測だけど」

「……宮森は?」

「ぬ、私……明日の事もよくわからないんだ」

「??、多分、誰だってそうさ」

「え?」
「白河君も?」

「もちろん。そりゃな」

「ぜんぜん迷いなんて無いように見えるんだが」

「……まさか」
「迷ってばかりだよ」
「俺」
「自分の周りで出来る事をこなしてるだけ」
「??余裕ないんだ」

「…そっかぁ」
「そうなのか」

少し、嬉しかった。
少しなんてものじゃないのかも知れない。
白河君と、同じなんだと思えた。ほんの少しだけ??


「あれ、紙飛行機?てかプリント……」

「手先器用だから、結構得意なんだ」

私は確りと折り目を着けて、
流すように薄暗くなった夜近い空へ紙飛行機を飛ばす。
それは風に乗って何処までも??



私と白河君は帰路についていた。
途中、巨大な貨物車が道路を走りすぎていく。

「凄いな、なぁ宮森……」

「時速5キロなんだそうだ」

「??えッ」

「南建ての打ち上げ場まで」

「あぁ……そっか」

「今年は久しぶりに打ち上げるらしいぞ」

「あぁ、太陽系のずっと奥まで行くんだっけ」
「……何年もかけて」

途中、雨が降って来て……。
私は雨の中、??ずっと白河君の背中をずっと見つめていた。

???????
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グツグツと、今晩の夕食を作る音がする。

「あんた希の進路ちゃんと相談に乗ってやりなさい」
「色々と曖昧な子なんだから」

「大丈夫よ」
「あの子も、もう子供じゃないんだし」
「……ふふ、私も昔はあぁだったなぁ」


白河君は、自分も余裕がないと言っていた。
その言葉を思い返すたび、少しだけ、
遠くに居る感覚の白河君が近くに来たような、そんな気がする。
素直に嬉しかった。

「なぁ、ブーン」

「わんお」

「白河君わからないんだとさ」
「ふふ、一緒なんだ……白河君も」

???????
???????


「……朝陽」

それは、本当に、
想像を絶するくらい孤独な旅であるはずだ。
本当の暗闇の中を、ただひた向きに、一つの水素原子にさえ、
めったに出会うことなく、ただただ深淵にあるはずと信じる、
世界の秘密に近づきたいいっしんで、僕たちはそうやって、
どこまで行くだろう、
??どこまで行けるのだろう。

……。

ピッ、ピッ、ピッ……。

「……」
「削除、しなきゃ……」

出す宛のないメールを打つ癖がついたのは、

??いつからだろう


???????
???????

昼、私はふと前に白河君と一緒に居た広い草原に来ていた。
それは突然に、風が私の後ろから吹き抜けると、
空高く草を舞い上がらせて、何処まで続いていく蒼い空へと向かっていく。
白い雲が目に分かるように動いていて、私の心は雨上がりの晴れ空そのものだった。


私は姉と再び海に来ていた。
今日は晴れていて、根拠のない不思議な自信が、
私を波に乗れと言わんばかりに心を急かせていた。

「希、あんた進路決めたの」

「いや、まだ分からないが」
「……でも、それでいい」
「決めたんだ」
「一つずつ、出来る事から確実にやる」
「よし、行ってくる」

「ふふ、何があったんだか」


私は砂浜で軽く準備運動をする。
心の背骨が、真っ直ぐになっていた。

「……よし」

あの日から、
いくつかの台風が通り過ぎ、
そのたびに島が少しずつ涼しくなっていた。
砂糖きびを揺らす風が微かに冷気を孕み、
空がほんの少し高くなり、雲の輪郭が優しくなって、
単車に乗る同級生達が薄いジャンパーを羽織るようになっていった。


「……!!!」
「や、やったぞ!」

私が、半年ぶりに波の上に立てたのは、
まだ夏が辛うじて残る。
そんな十月の半ばだった。

???????
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ピンポンパンポーン

≪本日夕方からの天候は晴れ≫
≪最大風速は8メートルの予報となっています≫

ガヤガヤと生徒達が囁きあう。

「佐々木さん、山田から告白されたらしいよ」

「流石だなぁ?、あれ?」
「希なんか今日嬉しそうだね」

「白河君となんかあったの?」

「……ふふ」

「「うそ!?」」


「……」

私だって、
今日こそ、
白河君に告白するんだ。

私は手洗いで顔を洗い、覚悟を決める。

波に乗れた今日言わなければ、
この先も、
きっと、
ずっと言えない。



「ん?宮森?」

「あ、あが……白河君……」

「ん、その様子だと今帰りか」

「ま、まぁ……」

「そっか、んじゃ一緒に行くか」


私と白河君は、いつもの小店に来ていた。
……いつ告白しようか、戸惑っていた。


「ん、宮森」
「今日は決めるの早いな」

「あ、あぁ」

私は白河君と同じコーヒー牛乳を買う。
……タイミングがつかめない。
単車の置いてある駐車場に来てしまった。
このままでは、言えない。
そう頭で思った時、不意に私は白河君のシャツの裾を掴んでいた。

「……ん?宮森?」

「……ぁ、ぁ」

「??どうしたの」

その時の白河君の表情が。

「……ぁ、優しくしないでくれ……」

「ん?」

「あ、いや、なんでも、ないんだ……」


ギュルルルッ......ギュルルルル...

「ん、あれ」

「宮森の単車、調子悪い?」

「うぐ、変だな」

「……駄目なのか?」

「あぁ、プラグの寿命なんじゃないのかな」

「これ、お下がり?」

「あぁ、姉さんのだ」

「家族で引継ぎしてた?」

「……していた、多分」

「今日はここに置かせてもらって」
「後で家の人に取りに来て貰おうぜ」
「今日は歩くか」

「え、いや、私一人で、歩く……さ」
「白河君は、先に帰っていてくれて構わないから」

「あぁ、でもここまで来れば近いからさ」

「それにちょっとな、……歩こうと思って」


無言のまま、二人の一定距離が出来ていて。
ひぐらしの声と、夕焼け色の空と。
白河君は、ずっと……遠くを見ながら歩いていた。
私には、見向きもしてくれない……。

いかん、涙が……。
白河君、頼むから……。

「うっ、ふぇっ、うぅ……ぐすっ」

「ど、どうした……んだよ」

「す、すまない、ぐすっ、なんでもないっ、っ……」

頼むから……もう、
私に優しくしないでくれ……。


その時、私の鳴き声がかき消される轟音と共に、
遠くとも近くとも言えない微妙な距離感で、
白い大量の煙を巻き上げて空を目指して飛び立っていくものが、
私と、白河君の意識を、一気に集めた。
それは、本当に少しの出来事で、
気づいた時には、ロケットの煙が、風にゆっくりとかき消されていって。

「……凄い」

「……あぁ」

必死に、
ただ闇雲に空に手を伸ばして、
あんなに大きな塊を打ち上げて、
気の遠くなるぐらい向こうにある何かを見つめて。


白河君が他の人と違って見える理由が、
少しだけ、わかった気がした。

??、そして同時に、
白河君が私を見てなんていないという事に、
私はハッキリと気づいた。
だからその日、私は白河君に何も言えなかった。
もう涙も、出ない。

「どうした?……行こうぜ?」

「ぁ、あぁ、すまない、はは」



「それじゃ、宮森また明日な」

「うん、また……」



白河君は優しいけれど、
とても優しいけれど、
でも、白河君はいつも、
私のずっと向こう、
もっとずっと遠くにある何かを見ている。
私が白河君に望むことはきっと叶わない。
それでも、
それでも私は白河君のことを、
きっと明日でも、明後日でも、その先も……。
やっぱりどうしようもなく好きなんだと思う。
白河君のことだけを思いながら、泣きながら。

??私は眠った。



「第二話 コスモナウト」

                      終
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次回、終章。

『どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか』

???素直クールな秒速5センチメートル
動画 アダルト動画 ライブチャット