父親が半年間の海外調査旅行の末帰ってきたのだが、どういうわけなのか女の子を一人、
連れて帰ってきたわけだ。
「名前はクラウディアだ。仲良くするように」
 そういい捨てて親父はその日のうちにまたどこぞの砂漠に行ってしまったのはいいが、
この子いったいどうすりゃいいのさ親父!?

 ちょこんと椅子に腰掛けてるその子。
 金色の長い髪に南国の海の瞳の色。
 薄桃色を帯びてるくらいの白い肌。かすかに鼻もとに散ったそばかす。
 白人の女の子の年齢とかよくわかんないけど、十代半ばくらいな感じがする。

 僕は
「Hello」
 と呼びかけてみる。

「bonum diem! ……?」

 そう。問題は、僕がこの子の話す言葉が全くわからないということ。

 これでも父の調査の手伝いくらいしてるので英語くらいならわかるし、アラビア語だって
ゆっくりと話してもらえれば多少はわかる。でもこの子が話してるのは何語なのかすらわからない。

「mihi nomen Claudia est」

あ、なんかクラウディアって言ってる。
自己紹介してんのかな。
桜色の唇が美しく動く。
「quod nomen tibi est?」              (あなたのお名前は?)
…なんて言ってるんだろ?

「あー。僕の言葉わかる? Do you understand my word?」

 金髪のこの子はほんの少し頭を傾げると、「よくわかんない」というような表情をしてみせる。
 そしてクラウディアの南国の海の色の瞳が大きく開かれる。
 その海の色が僕の目を真っ直ぐに射抜く。

 深い海のような青黒い瞳。それは僕の視線を吸い込んでいくような深さで。
 紫水晶のように澄んでいる色が、僕の視界のほとんどを占める。
 僕の視界すべてがきれいな色の瞳で占められる。

 気がつけば、びっくりするほど近くにクラウディアはいた。

「………Amor, ut lacrima, ab oculo oritur, in pectus cadit.」 
                             (愛は涙のように、目から生まれて胸へと落ちる)

 なんて言ってるのかわからない。
 まるで美しい詩を口ずさむみたいに、小さいけれど耳をくすぐるような囁きが耳に入ってくる。
 でも、クラウディアの瞳が僕の目を射る。
 その澄み切った深い青い色は、まるで僕の何もかもを見透かすかのように、僕を射抜いていた。

 その綺麗な、深い湖みたいな色が僕の視界いっぱいに広がる。
 なんだろう。
 なんなんだ?

 なんだろう。
 なんなんだ?

 僕の脳裏に?が広がりきる前に、それは終わった。
 視界は元に戻り、そしてクラウディアの口元が緩む。
 可憐な花の蕾がほころぶみたいに、その薄い桜色をした唇が、笑みの形に変わっていく。

 なんだかクラウディアの頬が赤いみたいだ。熱?環境が急に変わったからなのかな。
「クラウディア、どうしたの? 疲れちゃった?」
 伝わってるのかどうかわからないけど、僕はそうクラウディアにささやきかける。
 クラウディアはかすかに首を振り、その詩的な響きの甘いささやきを僕の耳に伝えてくる。
「Nullis amor est sanabilis herbis.」 
                        (恋はいかなる薬草によっても救済できない)
 そう言うと、クラウディアは勢いよくジャンプする。そして僕の首にぎゅっと強く抱きついてきて、
熱くていいにおいのするゾクゾクするような吐息を僕の首筋に吹きかけてくるのだった。

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