後輩が結婚した。それ以来後輩はOB会には毎回奥さんを連れてきた。
OB会メンバーでは唯一堅物の後輩と違い、彼女は悪乗り上等の俺達と馬が合った。

あるとき、後輩抜きで奥さんがOB会に顔を出した。頬に痣があったが、
後輩と喧嘩したとだけしか言わないのでそれ以上は追求しなかった。

しかし、そんなことが何度か続いたので、彼女を呼び出し問い詰めてみた。
半ば予想はしていたが、後輩の一方的なDVだった。

「あんたもとんでもない男と結婚しちまったなぁ。」
「うん…… 私は自分が嘘が苦手だから、あんなに表裏があるとは思いもしなかったよ。」
「あんたは素直だもんな。で、どうするんだ?」
「もう少し様子を見るよ。」
「そうか、俺のとこだったらいつ逃げてきてもいいぞ。」
「ん、ありがと。別れたら…いや、なんでもない。あなたはいい人だね。」

そしてついに離婚。後輩はOB会メンバーに何も言わず音信不通に。
「あいつもこれで少しは懲りてくれればいいんだが、逃げるようじゃなぁ。」
「書類が片付いたら、私からの電話にももう出ないんだよ。」
「そうか。ホントに最後まで大変だったな。」
「でも、彼には少しだけ感謝しているんだよ。」
「ん? 少しは楽しい思い出でも残ってるって?」
「あーいや、そんなもん嫌な思い出とセットだから思い出したくもないよ。」
「じゃぁ何に感謝?」
「彼がいなかったら、あなたに会えなかった。だから、それだけは感謝している。」
「俺? 俺なんかあんたに何もしてやれなかったじゃないか。」
「そんなことない。ずっと私のこと気にしててくれたじゃない。今だから言えるけど、あなたのことが好き。」
俺には青天の霹靂だった。
「いや、あの、あんた、だって、そんな素振りも見せなかったじゃないか。」
「んー、私嘘は吐けないけど顔には出ないから♪」と、満面の笑み。
披露宴のとき、後輩に向けた笑顔にときめきそうになったまま封印していた気持ちが溢れてくるようで、
何も言えずに彼女を抱き締めた。

ふと、彼女がしゃくりあげるのに気付いた。
身体を離し、指で彼女の涙を拭いながらわけを尋ねた。
「ん、こんな風に抱き締められたことなかったからびっくりしちゃった。でも嬉しくて嬉しくて……」
勿論、もう一度抱き締め直した。






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