事件とは、本当に唐突に起こる。
 俺こと解助が彼女である説子と、俺の親友のである素直と一緒に飯を食っていた時の事だ。
 一人の女性とが俺達の前に立った。
 ポニーテールに怜悧な容貌――隣のクラスの留学生・クール=ストレーナ
 彼女は俺達、というか素直の前に立つと、何の気負いもなくこう言った。

「素直くん。唐突だが私はあなたが好きなの。付き合ってくれないかしら?」
「その前に質問がある、クール君。カメラと「どっきり」と表記されたプラカードを持っているスタッフはどこに隠れている?」

何が起こってるんだ?何が起こってるんだ?
俺こと解助は、説子が作ってくれた弁当のタコウィンナーを口からはみ出させたまま、目をぱちくりさせる。
目の前の男女は、似たもの同士だ。
冷静で理性的で殆ど常に無表情。だが自分の欲求に正直で、常識を平気で踏破する。
素直クール。一言で表現するならそんな感じだ。
そんな二人が、お互いを探るように互いを見つめあい、会話をしている。
その声の平坦さや、凍りついたような表情は、まるで早打ちに挑もうとしているガンマンのよう。
だが二人の間で飛び交うのは弾丸ではなく

「素直くんは、これが悪戯の一種と考えているのか?それならば誤解だ。
私の発現に虚偽はない。君に異性として好意を抱き、男女の交際を申し込んでいる」
「なるほど。確かに信用は置けるだろう。仮に冗談、悪戯の類であるとしてもここまで言い当てられた時点で種を明かすのが普通だ。
まして君の普段の行動様式からしてこのような悪戯を仕掛けるとは思えない。
だが普段の行動を判断基準にした場合、君が俺に好意を持っているという事実は極めて信じるのが難しい」
「それは当然だと言える。私が君への好意を表明したのは今しがたの発言が始めてであり、またそれが外部に発覚せぬよう可能な限りの注意を払ってきたのだから」

…えっと、つまりこいつらの言っている事を意訳すると

『ふ、ふざけてなんかないわよ!本気なんだから!』
『そう…なのか?確かに、お前はそんな奴じゃねぇけど…けど、そんなそぶり少しもなかったのに…』
『当たり前よ。今まで秘密だったし…ばれないように気をつけてたもん』

ってことか?

だが…内容と表情とかが全くあってないだろう?
戸惑う俺の耳元で、説子が囁いた。

(ねぇ、見てよ解助。素直くんもクールさんもすっごく照れてるよ)
「なんですと!?」

 説子の言葉に俺は驚き声を上げてしまう。
 あの二人が照れてる?
 あの、新聞部でロボ疑惑すら取り上げられたことがあるあの二人が、照れる?
 改めて二人を見てみるが、しかし俺には普段との違いが全く見られない。
 ―――いや、少しだけ、耳が赤いか?
 気のせいかもしれない僅かな変化。

「大体、解らない。どうして君は俺に好意を抱く?」
「それは不明よ。だが、それは問題ではないと思うわ。
 要は、素直くんが受け入れてくれるかどうかよ」
(うわぁっ…クールさん、開き直ってきたね。
 素直くん、押されてるよ。ま、好きな人から告白されたら当然だよね)
(アイツ、クールさんのこと好きだったのか!?)

 衝撃の新事実。足元が崩れるような感覚を受けつつ、俺は二人の攻防を見つめる。

「なるほど。確かにそれは道理だ。
 男女交際は両者の同意確認以上の必要がない。だが…」
「なら回答して。もちろん、断ってもかまわないわ。
 しかし振るならば教えて欲しいわ」
「いや、その必要はない。君との交際を了承する」
「嬉しいわ」
(うん!がんばった!よくがんばったわ、二人とも!)
(いや、そんなにがんばったのか?)
(がんばったわよ、二人とも、物凄く緊張しているじゃない!)
力説する説子。しかし俺には二人とも、普段通りにしか見えない。
「では、今日の放課後に一緒に帰るということで、いい?」
「解った。校門の前でだな」
 俺と説子が言い合っているうちに、二人は早速、一緒に帰る予定を立てている。
 その事務的な会話からは、やっぱり「ときめき」とかそういった要素が微塵も感じられない。

「では、私は移動教室なので失礼させてもらうわ」
「解った。放課後、校門で。予定に変更があった場合は携帯電話による連絡を入れる」
「ええ」

 それだけ言って、クールさんは教室から出て行った。

「あ、私。心配だからクールさんの様子見てくるね。素直くんのことはヨロシク」
「心配?っておい!?」

 俺の疑問に答えずに、説子はクールさんが出て行った扉から駆け出した。

(心配するような様子は見受けられんがなぁ)

 俺は首をかしげながら、隣で告白を受ける前と全く変わらない様子の素直をからかう事にした。

「よう!良かったじゃないか!」

 俺は彼女の肩を叩き―――そのままの体勢で、素直は椅子ごと横に倒れた。

「うおっ!?だ、大丈夫なのか!?」
「―――ああ、問題ない」

 まるでゼンマイが切れた人形のように、ピクリともせずに言う素直。
 ひょっとして…こいつ、めちゃくちゃ緊張していたのか?
 どうしようかと途方にくれる俺の耳に、今度は廊下から悲鳴が聞こえた。

「うわっ!クールさんが倒れたぞ!」
「ゼンマイが切れたのか?」
「ほ、保健室保健室〜!」

 …どうやら、説子の心配はこのことだったらしい。

(変な奴ら…)

 ともあれ、コレがこの風変わりな―――素直クールカップルの馴れ初めだった。




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