兄様は、星を見るのが好きです。 私ももちろん好き。 星が、ではなく。星を見る兄様が、ですが。 「寒くないか? ひとみ」 家の屋根にしつらえられた、小さなテラス。兄様は、星のよく見える夜、ここに来てはチェアに仰向けになり、 夜空に思いを馳せています。 そして私も、よく兄様に誘われてここに来ます。 まだ二人とも中学生だから、こんな小さなチェアでもかろうじて二人のスペースを許してくれるのだけれど、 私は兄様に抱かれるようにして横になり、二人して同じ方向に目を向けるのです。 私にとって、至福の時間。 少し肌寒いのを兄様は感じたのだろう、私を気遣ってくれます。夏が過ぎ秋を迎え、少し過ごしやすくなった夜、 いつも兄様はそう私に問いかけるのです。 ここで私は、寒い、とは言いません。 言えば、兄様はこの星空鑑賞を切り上げ、私を部屋に戻してしまうだろうから。 だからここで私は、寒くない、と言うようにしています。 そうすれば、優しい兄様は、より強く私を抱き寄せてくれるはずだから。 ・・・ほら、こんなふうに。 「なぁ、あの大きく光る星、分かるか?」 兄様は、夜空の一点を指さしました。そこには、ひときわ大きく輝く、一つの星。 「なんかあの星、気に入ってるんだよ、俺」 その大きな星の側に、いくつかの輝く星。 「ひとみも大きくなったら、あの星みたいに、きらきら輝く女の子になれよ」 そういって私を強く抱きしめてくれた。 兄様、たぶんそれは違います。 その大きな星は、兄様です。 私はむしろ、その星のすぐ側で小さく光る星になりたい。 ・・・と、そんな風なことを兄様に言いました、私。 すると兄様、あははと笑いながら。 「中学生になったっていうのに、ずいぶんと甘えん坊だなぁ、ひとみは」 などと、また私を子供扱いします。 さて、兄様、今日はご報告があります。 「ん? なんだ?」 今日、初潮が来ました。 「・・・って、そんなこと、俺に報告しなくてもよろしい・・・」 いえ、まずは最初に、兄様にお知らせしないと。 私が、子供から大人の身体に成長したことを報告しました。そうすると兄様は、少し狼狽えているようです。 実によい反応。 今まで私が、幼い身体でどんな風にアピールしても軽くあしらわれてしまったことからすると、やはり大人の身体になったという事実は強い武器になりそうです。 さぁ、これからガンガン攻めますよ、兄様。 私はそんなことを心の中で再び決意した後、愛しい兄様に、宣戦布告をすることにしました。 「兄様、お慕いしています」 END OF TEXT |